March, 2, 2023, 東京--東京大学物性研究所の柳澤啓史 特任研究員(研究当時:ドイツLudwig-Maximillians大学 DFGプロジェクトリーダー)らの研究チームは、大きさが1nm程度のサッカーボール状の炭素から成る分子(フラーレン)を固体の上に配置し、そこに電子を通過させる際に光を照射することで、フラーレンから放出される電子の位置を1nm以下のスケールで制御することに成功した。
この成果は、光で動作する電子の分岐器をフラーレン1分子で作製できることを示している。さらに約70年間未解明であった、電子が1分子を通過するメカニズムについて、近畿大学理工学部の鬼頭宏任准教授との共同研究により解明した。この結果、分岐器の機能は、1分子の量子的な効果が基となり発現していることを理論的に解明した。
光を固体に照射することで、固体から電子が飛び出す現象を利用した電子の取り出し技術は、現在のコンピュータに用いられるスイッチの速度を1000倍から100万倍に上げるスイッチとして期待されている。電子が飛び出す位置は10nm程度の精度で制御することが可能で、この技術により超高速スイッチを固体内に集積することができる。一方で、より小さい領域での放出位置操作は超高速スイッチのさらなる集積化のために重要だが、その達成はこれまで技術的に困難だった。
この研究成果は、超高速スイッチのサイズを1分子にしただけでなく、今後、分岐機能により1分子に複数スイッチを集積できる画期的な技術となることが期待される。
研究成果は、2023年3月6日(現地時間)に米国科学誌Physical Review Lettersのオンライン版に掲載予定、注目論文であるEditor’s Suggestionに選ばれた。
(詳細は、https://www.issp.u-tokyo.ac.jp)