January, 5, 2023, 京都/東京--京都/東京―京都大学、内田健人 理学研究科特定助教、草場哲 同研究員(研究当時)、永井恒平 同日本学術振興会特別研究員(研究当時)、田中耕一郎 同教授らの研究グループは、池田達彦 東京大学助教との共同研究によって、2次元半導体の一種である単層WSe2に強い赤外パルス光を照射することで世界最高レベルの大きなエネルギー構造変化を電子状態におこすことに成功し、そのような状況下ではWSe2中で起こる10兆分の1秒という極短い時間に起こる電子状態の変化を反映した特徴的な光が試料から生じることを明らかにした。
近年、技術の発展に伴って物質内部の電子が感じるクーロン力に相当する電場強度をもった光を物質に当てることが可能になっている。このような極端に強い光電場下では電子が光を当てていない状態とは大きく異なった状態へと変化させることができ、その状態は光のドレスを着た光着衣状態として理解されてきた。光着衣状態は光の振幅が時間的に一定と仮定した電子状態だが、実際の実験ではごく短い時間(約10兆分の1秒)だけ振幅をもつ超短パルスが多く用いられている。短いパルス光照射の間には光着衣状態が変化していくはずだが、極短い時間スケールでのダイナミクスは明らかになっていなかった。
研究グループは、単層WSe2において高強度な超短赤外パルスを照射し試料自体から発生する光に着目した。結果として、特定の実験条件では単層WSe2の励起子と呼ばれる電子状態に対応する周波数から光が生じることが分かった。数値計算を組み合わせることで、赤外光パルスが当たっている時間の中で光着衣状態のエネルギーがこれまで報告されている中でも世界最高レベルで変化(~0.15 eV)していること、時間上での大きなエネルギー変化が異なる光着衣状態への飛び移りを引き起こし励起子状態から光が放射される起源になっていることを明らかにした。
研究成果は、光駆動下の電子のダイナミクスによって生じる新奇な光学現象を発見したものであり、これまで困難であった非常に短い時間の光着衣状態ダイナミクスの観測に成功した世界初の報告である。また、研究成果はパルス波形を整形することで光駆動された電子状態の動的な振る舞いを制御可能であることを示している。
研究成果は、2022年12月21日に、学術誌「Science Advances」にオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.kyoto-u.ac.jp)