October, 2, 2014, Wako--理化学研究所(理研)と電気通信大学は、 X線自由電子レーザ(XFEL: X-ray Free Electron Laser)施設「SACLA」を使い、 X線可飽和吸収の観測に成功した。
光を物質に照射すると物質ごとに決まった量が吸収されるが、 光の強度を高めていくと、 物質が光を吸収できなくなり透明化する 「可飽和吸収」という現象が起こることが知られている。可飽和吸収は、 可視光の領域で半世紀以上前に発見され、 物質を透明化させることで光の通り道(光導波路)を作り出すなど、光通信をはじめとする先端技術にも幅広く利用されている。 短波長の光であるX線も、 強度を高めると可飽和吸収が起こることが理論的に予測されていた。 X線可飽和吸収は、 強度の高いX線が照射された部分に選択的に起こるため、 光導波路や、 超高速のX線スイッチング素子といった、 さまざまなX線光学デバイスへの応用が期待されるが、 X線領域で可飽和吸収を起こすには、 X線の強度を極端に高くする必要があるため、 実際に成功した例はなかった。
共同研究グループは、 これまで、 SACLAが生成する高輝度X線レーザに対して、 独自に開発した二段集光光学システム[4]を適用することにより、 1020 W/cm2 という世界最高強度のX線の生成に成功している(2014年4月28日プレスリリース)。 今回、 このX線レーザを鉄の薄膜に入射させて吸収スペクトルを計測し、 通常の状態に比べ、 X線の透過率が10倍以上増大することが分かった。 また、X線の強度が高い部分だけが透明になるため、吸収する物質内にX線導波路を形成できることも明らかになった。この発見は、 次世代のアト秒X線光学や動的X線光学の最初の一歩となり、新たなX線光学デバイスを開発する技術として進展が期待できる。
これは、電気通信大学の米田仁紀教授、理研放射光科学総合研究センタービームライン研究開発グループの矢橋牧名グループディレクター、 高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室の犬伏雄一研究員らと、大阪大学大学院工学研究科の山内和人教授、東京大学大学院工学系研究科の三村秀和准教授、 京都大学大学院理学研究科の北村光助教らを中心とした共同研究グループの成果。