December, 9, 2022, 横浜--産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門 小林拓実主任研究員、高見澤昭文 主任研究員らは、横浜国立大学と共同で、イッテルビウム光格子時計とセシウム原子泉時計の2台の高精度な原子時計を用いて、宇宙に大量に存在しているものの正体が解明されていない暗黒物質(dark matter)の探索を行った。
産総研は、時間の単位「秒」の定義を実現するセシウム原子泉時計と、秒の再定義の候補の一つであるイッテルビウム光格子時計を長期間高い稼働率で運転し、国際的な標準時である国際原子時に貢献している。原子時計の周波数は微細構造定数、電子質量などの基礎物理定数によって決まっており、基礎物理定数が一定不変であることが原子時計の正確さを保証している。一方で、原子時計は基礎物理定数が本当に一定不変かを検証する実験装置であるとも言える。
近年、暗黒物質の候補の一つとして、電子質量(約9×10-31 kg)よりも20桁以上軽い超軽量暗黒物質が提案された。この非常に軽い暗黒物質は粒子ではなく、波として振る舞う。もし、暗黒物質の波が原子などの通常の物質と相互作用すると、基礎物理定数が周期的に変動し、それに伴い原子時計の周波数が周期的に変動すると理論的に予想されている。
研究では、イッテルビウム光格子時計とセシウム原子泉時計の周波数比データからそのような周期的な変動を探索した。この結果、質量範囲10-58 kg〜10-56 kgの超軽量暗黒物質と電子との相互作用について、このような相互作用はないか、あるとしてもその強さは非常に弱いという知見が得られた。
研究成果は、暗黒物質の解明を目指した基礎物理学に貢献する。
なお、この技術の詳細は、2022年12月7日(米国東部標準時)に「Physical Review Letters」に掲載された。
(詳細は、https://www.aist.go.jp)