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高強度レーザ照射による物質表面の超高速構造変化をナノスケールで観測

July, 20, 2022, 東京--欧州X線自由電子レーザー研究所(European XFEL)の中堤基彰研究員、ドイツSiegen大学のChristian Gutt教授らの国際共同研究グループは、X線自由電子レーザ(XFEL)施設「SACLA」を用いて、フェムト秒レーザの照射に伴う固体表面のアブレーションのダイナミクスを、ナノメートルの深さ分解能とピコ秒の時間分解能で計測することに初めて成功した。

 微小角斜入射小角X線散乱(GISAXS)と呼ばれる手法を初めてXFELに応用したこの結果はレーザ微細加工や高エネルギー密度科学に新たな展望を拓く測定手法と期待される。

 研究成果は、米国物理学会(APS)が発行する国際学術誌「Physical Review Research」に、2022年7月15日に掲載された。

研究内容と成果
 共同研究グループは、SACLAによる微小角斜入射小角X線散乱(GISAXS)を用いることで、この超高速ナノダイナミクスを観測した。GISAXSはこれまで、スパッタリングによる薄膜生成など、ミリ秒程度の比較的ゆっくりとした表面成長プロセスを可視化する手法として放射光で用いられてきた。今回、SACLAを用いることで従来のミリ秒からピコ秒と、9桁に及ぶ時間分解能の改善が初めて実現された。また、空間ポインティングに非常に敏感なGISAXSにおいては、SACLAの非常に安定なX線ビームが重要な役割を果たした。

 この観測手法では、サンプルにはナノ多層膜サンプルが使用され、X線はtotal external reflection angleと呼ばれる全反射角(約0.5度程度)よりもわずかに大きな入射角で入射される。これらの非常に浅い入射角度では、X線が固体へ侵入する深さは数十ナノから数百ナノメートルに制限され、表面の構造変化に非常に敏感なプローブとして作用する。輝度の非常に強い鏡面反射をビームストップによりブロックし、表面付近の電子密度分布によって散乱された、鏡面反射よりも何桁も強度の低い散漫散乱をSACLAで開発された高性能2次元X線検出器で計測した。

 SACLAの高輝度なX線を利用することで、わずかフェムト秒のシングルパルスで解析に可能な十分な信号が得られることが初めて示された。これらの散漫散乱パターンを解析することでナノメートルの深さ分解能を持つ電子密度プロファイルが再構築され、さらに、得られた密度プロファイルを最先端のプラズマシミュレーションと比較することで新たな知見も得られた。これまでこのレーザ強度領域で頻繁に用いられていた流体コードと実験結果との間には大きな差異が見られた一方、粒子衝突が支配的となる本プラズマ領域での使用は不適切と考えられてきたParticle-in-cell(セル内粒子)コードでは、粒子衝突モデルを改善することで実験結果を比較的良く再現できることも分かった。

(詳細は、https://www.qst.go.jp)