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X線レーザを照射された原子は遅れて動き始める

June, 8, 2022, 和光--理化学研究所(理研)、筑波大学などの国際共同研究グループは、X線自由電子レーザ(XFEL)施設「SACLA」を用いて、X線を照射された原子はしばらくの間ほぼ停止していることを明らかにした。

研究成果は、放射線損傷[の影響がない精密X線構造解析を実現するための第一歩となるものである。

現在、「SPring-8」をはじめとした放射光施設では、物質の構造を1ピコメートル(pm)程度の空間分解能で決定する「精密X線構造解析」が盛んに行われている。しかし、XFELを用いた精密構造解析は実現例がなかった。

今回、国際共同研究グループは、精密構造解析の標準試料である酸化アルミニウム(Al2O3)について、高強度X線を照射した際に起こる構造変化をフェムト秒(fs)オーダーの高い時間分解能で計測した。実験の結果、X線の照射から約20fsの間、原子は1pm程度以下しか動かない、ほぼ停止した状態にあることが分かった。この結果から、X線の時間幅(パルス幅)を20fs以下にすれば、試料を放射線損傷で壊すことなく精密X線構造解析ができることが明らかになった。

今後の期待
放射光施設での精密構造解析は、試料の化学結合の状態や電子状態を調べることができる非常に強力な手法。しかし、試料によってはX線による放射線損傷のために、その構造を決定することが不可能だった。今回の実験結果により、X線の時間幅を20fs以下にすれば、放射線損傷の影響がない精密X線構造解析が可能になることが示された。今後、放射線損傷のない精密構造解析がXFELを利用することで実現されることが期待できる。

研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』の掲載に先立ち、オンライン版(6月1日付)に掲載された。

研究グループ
理化学研究所(理研)放射光科学研究センターSACLAビームライン基盤グループビームライン開発チームの井上伊知郎研究員、矢橋牧名グループディレクター、筑波大学数理物質系エネルギー物質科学研究センターの西堀英治教授、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チームの犬伏雄一主幹研究員

(詳細は、https://www.riken.jp)