August, 21, 2014, Tokyo--情報通信研究機構(NICT)は、イオントラップ型マイクロ波原子時計を開発し、現在、放送分野や精密測定分野などで広く使用されているルビジウム原子時計を約5倍上回る精度を実現した。
今回開発した原子時計は、原子捕捉型マイクロ波原子時計としては初めて、レーザ冷却を適用することで、その高精度を達成した。この小型で精度の高いイオントラップ型マイクロ波原子時計は、精密測定の精度向上や測位技術の発展、同期精度の向上による通信の多重化及び高速化に貢献することが期待される。
時刻と周波数は、ナビゲーションや高速通信、精密機器など社会インフラの重要基盤。研究レベルでは、光格子時計などの光時計の誤差10のマイナス18乗という驚異的な精度が実証されつつあるが、産業界では、未だ電気信号の基準としてマイクロ波時計が利用の中心となっている。中でもルビジウム原子時計は、数十万円程度の安価で手軽なものながら、誤差10のマイナス13乗の精度が得られるため、精密測定分野や放送分野で広く用いられている。さらに精度の良い原子時計として、水素メーザ原子時計(誤差10のマイナス15乗)が存在するが、2千万円程度の高価で重たい据置型であり、精度が2桁良い分、価格や重量も2桁大きく、ルビジウム原子時計と水素メーザ原子時計の間に大きなギャップがあった。
NICTは、ルビジウム原子時計と水素メーザ原子時計の間の大きなギャップを埋めるために、新しいイッテルビウムイオン原子時計を開発した。
原子捕捉型のマイクロ波原子時計では世界で初めてレーザ冷却を適用し、定期的にイオンを用いて磁場を測定することで、ルビジウムの精度を上回る原子時計を実現した。
原子時計を構成するレーザには、3台の半導体レーザのみを用いた。これにより、将来的に小型化、省電力化を進めることが期待できる。
今回開発したイッテルビウムイオンを用いたマイクロ波原子時計を普及させ、高精度化することで、精密測定機器の較正や、通信の大容量化に貢献することが期待できる。今後、試作機の完成度を高め、小型化とコストダウンを進めることで、実用機へと転換することを目指している。
この実験結果は、欧州の科学誌Applied Physics Bに採択された。