March, 31, 2022, 奈良/大阪--奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 情報科学領域の光メディアインタフェース研究室の舩冨卓哉准教授、向川康博教授らは、大阪大学大学院情報科学研究科の松下康之教授、千葉大学の久保尋之准教授、立命館大学の田中賢一郎准教授らと共同で、自然光の変動の影響を大幅に軽減し、高精度に光の波長ごとの明るさを計測できる分光撮像技術を開発した。
また、フランスのピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学のカロン・ギヨム准教授(兼:AIST-CNRSロボット工学連携研究ラボ国際客員研究員)、ムアディブ・ムスタファ教授らと共同でレーザや写真を用いた測量を行う建築遺産のデジタル化プロジェクトに参画し、世界遺産であるアミアン大聖堂のステンドグラスの分光撮像に成功した。
この研究成果は、情報学における国際論文誌International Journal of Computer Visionの特集号Computer Vision and Cultural Heritage Preservationに2022年3月25日(金)14時に公開された。(DOI:10.1007/s11263-022-01587-8)
高分解能分光計と回転ミラーシステムという装置で構成される計測システムによって、400-2500nmの範囲において1nm以下の分解能での高精細な分光撮像が可能となっている。ただし、このシステムは、画像の1画素ずつを順次計測する方式であるため、画像全体を計測するには、数時間程度を要す。また大規模な建造物を対象とする場合には、自然光下での計測となるため、天気や太陽高度などの経時変化の影響を受け、正しい計測ができないという問題があった。これに対して今回、回転ミラーシステムが持つ柔軟な計測能力を活かし、分光撮像の際に1行ずつ画像全体を計測することに加え、垂直方向の計測を1列だけ追加することにより、撮像が自然光の変動から受ける影響を大幅に軽減する技術を開発した。
今回開発した分光撮像技術の向上により、貴重な資料をデジタル化して記録保存する「デジタルアーカイブ」の文化的・学術的・社会的資源としての価値を高めることができる。災害などによる文化財の消失への備えとしての役割はもちろん、大聖堂に設置されたステンドグラスなどの貴重な文化財をあるがままで分光解析を行うことが可能になり、見た目では分からない組成に関する解析や、さまざまな歴史的資料の検証にも役立つことが見込まれる。また、多様な環境下におけるステンドグラスの見え方を、よりリアルに再現できるVRの鑑賞など、コロナ禍の観光資源として新たな活用が期待される。
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)