August, 12, 2014, Tokyo--情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)の根本香絵教授らと日本電信電話物性科学基礎研究所(NTT 物性科学基礎研究所)、オーストリア・ウィーン工科大学が参加する研究チームは、小さなダイヤモンドのかけらを用いた量子コンピュータの基本素子のデザイン、そこからシステムへ組み上げるためのアーキテクチャなど、 大規模な情報システムを組み上げられるような素子とシステムの構成に成功した。
実験室での量子制御の実験を、多数の素子からなる複雑な情報システムへと結ぶ方法の解明が、量子コンピュータの実現化上の「鍵」といえる。NIIとその共同研究チームは、この全く性質の異なる2つのハードルをクリアし、大規模な量子コンピュータを実現する素子とシステムの構成の詳細を世界で初めて示した。
この考えに基づき、ウィーン工科大学では、素子の実現化に向けて、すでに実証実験が進められている。今回のダイヤモンドを用いた量子コンピュータの構成方法では、誤り訂正にトポロジカル量子誤り訂正を用い、誤り耐性のある量子計算が実行可能であり、単純に素子の数を増やすことにより、より大規模な問題を扱うことが出来るスケーラビリティに優れた構成方法となっている。トポロジカル量子誤り訂正を用いることで、アーキテクチャにスケーラビリティを持たせ、またダイヤモンドと共振器を用いた素子設計で集積化を可能にしている。
ダイヤモンドは、近年急速に研究が進んでいる材料で、結晶制御や微細加工などが可能になってきた。また、その詳細な量子的性質も明らかになりつつあるなど、量子情報技術で期待のかかる材料。今回はその中でも特に注目されている、ダイヤモンド中の窒素原子(N)と空孔(V)の対がつくるNV中心の電子スピンと窒素原子15がもつ核スピンを用いている。
今回のアーキテクチャ・素子提案では、量子計算に必要となる素子の量子制御をひとつずつ追い、それらをすべて統合したシステムとしての動作の評価にも成功。また、これら量子制御の解析や、システム動作の評価は、タスクが変わっても変化しないので、解く問題に因らず適応できる。
提案されている素子は、現在の技術レベルで実現化が可能であることが計算上示されており、すでに実現化に向けた実験も進められている。現在の世界最大級の計算機を凌駕するような大規模な量子コンピュータを組み立てるには、精度の改善が必要な部分が一部あるものの、最近の急速な材料や加工技術、光制御の発達からして、十分に現実的な数値となっている。
また、素子の構成が小型化、集積化、大量生産に向くことから、段階的な開発によって将来の大規模化へ拡張が可能な仕組みが出来ていることは、今後の大規模な量子情報処理システムの開発に大きな意義がある。
今後は、ウィーン工科大学で進められている実現化実験のサポートを継続し、提案の実現化を目指す。同時に、詳細な量子制御の解析とシステムの改良により、実現化へ向けて理論的な改善も行う。
また、論文で提案した、光を用いて NV 中心の電子スピン間にエンタングルメント共有させる方法によって、量子通信へ拡張が期待できるため、今後はこのような課題にも取り組んでいく予定。
(詳細は、www.nii.ac.jp)