January, 24, 2022, 東京--慶應義塾大学と産業総合研究所(産総研)の研究グループは、平板材料の厚さと屈折率を、同時に極めて高精度に計測する技術を開発した。
光学レンズをはじめとした光学素子の設計には、材料を構成する物質の屈折率を正確に決定することが不可欠。また、光学レンズ加工前の平板材料の正確な厚さの決定も重要。
今回、光の位相変化量を正確に直接計測できるデュアルコム分光法を用いて、平板シリコン材料の厚さと屈折率を、非接触で、多波長に対して高精度に同時計測する手法を開発した。この手法は、材料の屈折率を、平板形状のまま、究極的な精度で計測できる画期的なものである。今後、各種光学材料の正確な屈折率計測に応用することで、光学素子の高精度設計につながることが期待できる。
研究成果は、2022年1月12日(現地時間)に『Optics Express』で公開された。
研究内容・成果
研究では、屈折率の良く知られた物質であるシリコンの平板を試料として用いた。デュアルコム分光法を用いて、波長1.52µm~1.57µmにわたって試料を透過した光に対する透過率と位相変化を調べた。シリコン平板があるときは、試料の表面・裏面から複数回の光の反射(多重反射)が起こるため、それに起因する信号が現れる。この信号は物質内部での光の位相変化量を反映する。研究グループは、この多重反射信号を詳細に解析することでシリコン平板内部での光の位相変化量を求め、各波長での屈折率を求めた。
一般に、試料の厚さは長さの基準である「光の波長」に比べて非常に大きく、光が試料内に何波長分存在するのかが分からないので、観測される光の位相変化も正確に分からない。その結果として計測される屈折率の精度が低くなる。
今回、データ積算を重ねて各周波数での位相変化量の測定値のばらつきを抑えたこと、および光が何波長分試料に存在するかを決める新しい解析法を開発したことにより、試料に対する屈折率および厚さの測定精度が飛躍的に向上した。さらにこの手法では、広い波長域における高精度な屈折率測定を同時に実施することが可能である。
例えば波長1550 nmにおける屈折率測定値3.47563に対して精度は6×10-5(相対値:2×10-5)。また同時に、試料の厚さ520.473 μmに対して精度1.5 nm(相対値:3×10-6)という高い精度で厚さを決定することにも成功した。
今回の実験では環境温度の評価不足のため、シリコン平板の屈折率の相対精度は2×10-5に留まったが、測定値のばらつき(標準偏差)は4×10-6であり、精度評価の結果から、一般的な高精度の環境温度評価を行えば、最小偏角法の計測精度と同等の相対精度4×10-6が達成できると研究得グループは考えている。今後は環境温度も正確に評価しながら注意深く計測を進め、各種光学材料の正確な屈折率値を調査する予定である。
(詳細は、https://www.aist.go.jp)
研究グループ
慶應義塾大学大学院理工学研究科(研究当時)の住原花奈(現在は修了)、同大学理工学部物理学科岡野真人元専任講師(現防衛大学校准教授)、渡邉紳一教授、産業技術総合研究所物理計測標準研究部門光周波数計測研究グループの大久保章主任研究員、稲場肇研究グループ長