August, 23, 2021, 京都--龍谷大学 先端理工学部 応用化学課程の内田欣吾研究室は、光を照射することで内包物を放出する結晶カプセルを作成した。
有機結晶に光を照射すると、結晶が粉々に砕けるフォトサリエント現象と呼ばれる現象は最近注目されていた。今回、有機化合物の結晶を成長させる再結晶法を利用して、光応答物質と溶媒以外の第3の物質を共存させることで、その物質を内包した結晶カプセルが作成でき、さらに光照射により、カプセルが壊れ内包物を発散できるシステムを世界で初めて報告した。内包した化学物質を光で放出する機能や光ヒューズなどへの応用が期待される。
光を照射すると結晶が割れたり跳んだりする現象は、フォトサリエント現象として、ここ10年近くにわたって研究されてきた。光を当てることで結晶を構成する有機分子に光反応が起こり、別の分子に変わるなどして分子のサイズが初めの状態と変わることで、結晶表面にひずみが生じ結晶が破壊される。しかし、光で結晶が壊れるだけでは、実用性や機能は期待できない。研究チームは、ジアリールエテン(DAE)と呼ばれる熱的な安定性に優れたフォトクロミック化合物(光で色の変わる化合物)の研究を続けており、光で結晶が曲がるなどの応答挙動を検討してきた。光でカプセル内に収めたものを放出するカプセルについては、世界に例がなく、これまで光応答カプセルの開発に取り組んできた。
結晶カプセルを形成する分子構造を試行錯誤することで、分子1o(oは、開環体の英語、open-ring isomerの頭文字)が、有機結晶を溶媒中で成長させる通常の再結晶法により7.7%の収率で結晶カプセルが生成した。
結晶カプセルを作成した報告は既にあるが、他の物質をカプセル内入れる方法が問題になる。結晶内部に自由に物質を内包させ、それを放出するような結晶カプセルのシステムは、今まで存在しなかった。
研究チームは、有機溶媒の中に、内包させる物質とDAEを溶解させ、その物質を内包させたDAEカプセルが生成した。今回は、識別しやすい内包物として、緑色の蛍光を発するフルオレッセインという蛍光色素を選択した。この蛍光色素とDAE1oを溶解させたアルコールの混合溶液を室温で放置すると、溶媒が蒸発するに従い、フルオレッセインのアルコール溶液を内包した1oの結晶カプセルが21%の収率で生成した。紫外光を照射すると結晶カプセルは、フォトサリエント効果により壊れ、緑の蛍光がカプセル周囲に広がった。
さらに特筆すべきことは、再結晶の時間を短縮すると得られる結晶カプセルのサイズも小さくすることができる。
また、生体の窓と呼ばれる波長域の近赤外光の照射でも、このカプセルを割ることができる。さらに、この結晶では分子が規則正しく一方向に並んでいるために、ある方向の偏光だけがサリエント現象を誘起できるという点にも特徴があり、それを利用した応用も期待できる。
研究の成果は、英国王立化学会の旗艦ジャーナル「Chemical Science」に掲載(英文タイトル:Molecular crystalline capsules that release their contents by light)
(詳細は、https://doi.org/10.1039/D1SC03394H)