August, 10, 2021, つくば--産業技術総合研究所 (産総研)デバイス技術研究部門新原理デバイス研究グループ 飯塚将太 産総研特別研究員、森貴洋 主任研究員らは、シリコンスピン量子ビット素子を用いた大規模集積量子コンピュータの実現に向けて、スピン量子ビット素子と演算に必要な微小磁石を集積した新しい集積構造を考案した。
量子コンピュータの実用化には100万超の量子ビットを集積した誤り訂正型(汎用)量子コンピュータが望まれる。産総研では、既存の半導体集積化技術を利用できるシリコンスピン量子ビット素子に関する研究を進めている。大規模な集積のためには、製造プロセスにおいて生じる加工線幅の不均一性や配置時の位置誤差などの製造ばらつきに起因する特性不良の発生率を低減し、多数のスピン量子ビット素子を同時に正常動作させる必要がある。しかし、多数のスピン量子ビット素子を大規模に評価する実験技術がないために、素子や集積構造の製造ばらつき耐性を実験で評価できないのが現状。産総研ではこれらを評価できるシミュレータの開発を進めてきた。今回の研究ではスピン量子ビット素子の高速動作に必要な微小磁石を素子側方下部に埋め込む構造を新たに考案し、シミュレータによって高速動作と製造ばらつき耐性を評価した。その結果、配線層に磁石を形成する従来構造と比較してラビ振動(スピンの操作速度)が約10倍速くなるとともに、最大集積可能量子ビット数を制限する要因となっている製造ばらつき耐性を大幅に改善できることを示した。
この研究の詳細は、2021年6月13~19日にオンライン開催される国際会議「2021 Symposia on VLSI Technology and Circuits」において発表され、ハイライトペーパーに選ばれた。
(詳細は、https://www.aist.go.jp)