July, 16, 2021, UNIVERSITY PARK--ナノスケールの磨耗や損傷によるシリカガラスの表面下構造の変化が、分光学によって明らかになった。これは、国際研究チームによると、電子ディスプレイや自動車のウインドウなどガラス製品の改善につながる。
「研究グループの主要研究分野の一つが、ガラス表面の化学、主に特性、ガラスの構造、機械的および化学的特性、特に機械的耐性と化学的耐性間の関係である。われわれが利用している技術の一つが振動分光学。ガラス表面のナノスケールの構造分析の問題には、今日広く利用されている多くの分光技術は、ここでは使えない」とPenn State名誉教授、Seong Kimは説明している。
赤外分光学は、表面欠陥をある程度検出できるだけである。ガラス表面に生成される欠陥のタイプが10µm以下なら、赤外分光学の10µm波長以下であり、適切に分析、あるいは撮像できない。ガラス研究学会で利用されているラマン分光学などの分析技術は、空間分解能に関しては良好に機能するが、ナノスケールの構造分析には、まだ十分でない。
Kimのチームは、ナノレベルインデントの周りにどんな種類の構造変化が起こるかをガラス表面に見つける技術を実現したかった。研究の一環として、チームはガラス表面に微小チップでインデントを作った。それは、ナノインデントの深さを数百nm、幅を1µmまたは2µmにしたものである。微小なレベルの損傷でどんな種類の構造的変化が起こるかを見つけることは重要である。これらの微小な不完全さがガラス強度に影響を与えるからである。
研究者によると、この例は、コーニングが製造したGorilla Glassである。携帯電話などのディスプレイガラス、最近では自動車や航空機のウインドウにも製造されている。このガラスは、工場から出荷されたときには、極めて強力であるが、メーカーに到着するころには、それは弱くなる。これは、微小なスクラッチや他の損傷、出荷ペーパー接触、トラックの振動、パッケージング、荷下ろし中の通常の揺れによる物理的な接触によるものである。欠陥は見えないかもしれないが、ガラスを弱体化するに十分である。
また、ガラスは腐食する。腐食は、金属腐食とは違う。ガラスの腐食では、ガラスが、表面の構成要素の一部を失い、ガラスの化学的特性が変化し、それがガラスを弱くする。
「だから、そのような見えない構造的損傷をどのように特性評価するか。それはガラス科学にとって非常に重要な分野である。理論的に、ガラスは、スチールと同じくらいに強くなければならないからである。しかし、ガラスはスチールほど強くない、主な理由の1つは表面欠陥である」とKimは話している。
Kimのチームが、ガラスに極めて微小なインデントを作ったとき、ガラスに対する損傷でインデントの中や周囲にどんな種類の構造的変化が起こったかを見たかった。
「したがって、インデントの最大サイズはわずか数µmであるので、われわれは、高い空間分解能の赤外分光技術を使って、これを評価する必要があった」とKimは言う。
この問題を克服し、ガラスへの損傷を「見る」ために、Kimは、ペンステート、エンジニアリングサイエンス、メカニクス教授Slava V. Rotkinに接触した。同氏は、「ハイパースペクトル近接場光学マッピング」として知られる新しい計測技術を使う。この技術からは、光学スペクトル分解能と高い空間分解能の両方が得られ、ドイツのNeaspec GmpHが構築した散乱スキャニング近接場光学顕微鏡を利用している。
「ごく最近まで、Seongのような研究は間接的だった、小さな事象がナノスケールで起こっていることを実際にイメージングできないからである。あるいは、原子、または分子のような物理的なものに触れるが、光学的特性には触れない。だから、われわれの装置は実にユニークである。極めて小さなスケールでオプティクスの研究ができるからである。過去においては、それは可能ではなかった」(Rotkin)。
ガラスは、主として酸化ケイ素、砂あるいは原理的には同じだが、大きな違いがある、欠陥の存在レベルが違う時計の結晶シリコンでできている。砂は、表面欠陥の多い石のようである。結晶水晶は、完全な結晶であり、ガラスはその中間。このため、ナノスケールでガラスを「見る」ことが難しくなる。非常に多くの不均一性があるからだ。しかし、ハイパースペクトル近接場マッピング技術により、研究者は、正確に焦点を絞り、キズからトポロジカル損傷まで、ガラスへの影響を見ることができる。
「それは上方から大きな森を見ているようである。非常に多くの木々、藪、マッシュルーム、花などがある。実際に何を見るべきかがわからない。Seongの学生は、ガラスにキズをつけた。次に、そのキズを見ると、それは興味深く際立っている、まるで木々を取り除いて森に穴を開けたようである。また木々を取り除くと、藪を地面に押しつけ、それが、損傷により葉の色をどことなく変える。おそらく、それは現在使っている観察機械では見ることができないが、われわれの装置では、個別の茂みを見ることができ、それだけではなく、葉が赤く変色していることを見ることができる」とRotkinは説明している。
研究者によると、これはガラス科学にとって重要な一歩である。
「われわれが発表した論文は、これらガラスの非均一性がどのように起こるか、またその背後の物理学は何かを原理的に学ぶ新たな道を開く。われわれは、機械的な変化があると見ている。キズが物理的変化、化学的変化、光学特性における変化を作り出している。これは、極めて興味深い。実に大変なことだ」とRotkinは話している。
これを理解することは重要である。多くのタイプのデバイスには精密さが重要だからである。火星ローバ搭載カメラ、火星面に特別な特性を計測するかもしれないが、ガラス上の1つのキズがその光学特性に影響を与えるだけでなく、真に正確な計測にとって重要な機械的、化学的特性にも影響を与える可能性がある。あるいは、携帯電話カメラのガラス面のナノレベルのキズは、透明性を変えるだけでなく、色コードを変え、低品質の写真になる。
「この研究は、われわれが今までしたことがない方法でガラスに何が起こるかの理解を促進する。理解なしでは、プロセスあるいは製品は単なる試行錯誤でしか改善できない。しかし、さらに改善されると、それは知識ベースの開発、つまり処理になる。だから、物理的接触でどんな種類の欠陥が生ずるかを理解できないと、われわれはどのようにしてガラス表面を改善し、機械的、化学的により完全に、耐久性を高められるのだろうか」とKimは続けている。
この情報を装備することで、ガラス科学における新たな進歩の強力な可能性が現れるとKimは考えている。
「このような技術を使い、多成分ガラス材料で表面のナノ損傷を理解することにより、われわれはガラス科学の基礎的理解を大幅に高めることができる」とKimは話している。
(詳細は、https://news.psu.edu)