Science/Research 詳細

原子1個の誤差も無い半導体量子ドットの作製に成功

July, 3, 2014, Tokyo--日本電信電話(NTT)は、ドイツのポール・ドルーデ研究所(PDI)及び米国のネイバル・リサーチ研究所(NRL)との連携により、原子1個の誤差もない高精度で位置と構造が制御された量子ドットと、それを組み合わせた人工分子を作製することに成功した。分子線エピタキシャル成長(MBE)法によって作製した半導体の清浄表面の上に、低温走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた原子操作によって、原子をブロックのように積み上げることでこれを実現した。
 この技術を用いれば、原子のように特性が完全にそろった量子ドットを半導体基板上に自由に配列することができるため、完全に波長の揃った単一光子源や、同一の特性を持つ量子ビット列など、これまで構造の誤差によって実現が困難だった、原子レベルの再現性をもつ究極の量子デバイスが作製可能になる。さらにこのようなナノ構造を多数集積化し、制御することができれば、量子コンピュータや、従来のシリコン技術の限界を超えた“Beyond CMOS”と呼ばれる次世代技術に応用できる可能性がある。
 NTT物性研、PDI、NRLの研究チームは、位置・サイズが従来の加工精度をはるかに凌ぐ原子1個の誤差もない究極の精度をもった量子ドット(人工原子)と、それを自在に組み合わせたナノ構造(人工分子)の作製に世界で初めて成功した。
 この研究のナノ加工技術は、低温STMを用いた原子操作の手法を用い、MBE法による高品質な半導体薄膜の清浄表面にできた「くぼみ」に原子をブロックのようにはめこむことにより、同一の特性を持つ量子ドットを複数、再現性良く作ることを実現している。また、約10 nm四方の領域に数nmサイズの量子ドットを3個集積化することにも成功しており、これは局所的な集積度では現在のコンピュータで使用されているLSIの約1000倍に匹敵し、集積化という面でも極限に近いレベルと言える。
技術のポイント
(1)原子操作による量子構造形成
 インジウム(In)原子はインジウム砒素(InAs)表面に吸着すると自ら電子を1個放出して一価イオンになる。STMを用いると、表面の原子配列を観察できるだけでなく、表面にある原子を1つずつ拾って自由に別の場所に置く原子操作ができる。PDIのSTM原子操作技術により、多数(6 ~ 25個)のIn原子をブロックのように自在に並べることで、量子構造を実現。このイオン列が人工原子の「核(コア)」の役割を果たし、生じたポテンシャル井戸中に電子を閉じ込める。

(2)高品質単結晶半導体薄膜(111)A表面の活用
 原子を並べる基板にInAsの(111)A表面を使用。InAs(111)A表面には化合物半導体表面特有の原子配列に起因する「くぼみ」が周期的に並んでいる。その「くぼみ」にIn原子を「ブロック」のように固定することにより、原子レベルでまったく誤差のない構造制御が可能になる。今回の実験ではNTTの結晶成長技術を活かし、MBE成長した原子レベルで平坦なInAs(111)A清浄表面を用いている。MBE成長後、保護膜(アモルファス砒素膜)で覆った基板をPDIに搬送し、超高真空STM装置内で保護膜を除去することで、原子操作に最適な(111)A清浄表面が準備された。

(3)理論計算による人工原子・分子の物性解析・設計
 人工原子・分子の物性設計と解析には、NRLのスーパーコンピュータを駆使した密度汎関数法(DFT法)による計算が威力を発揮。これにより人工原子に閉じ込められた電子状態が、表面に配列した吸着In原子の原子軌道に起源を持つものではなく、半導体表面にある電子状態が閉じ込められて量子化されたものであることがわかった。また、複数の人工分子の比較により、作製した人工分子の特性には原子1個による誤差もないことが確認された。

今後の展開として研究チームは、原子・分子エレクトロニクスと半導体薄膜技術の融合による、新しい電子技術の開拓に向けた研究に発展させていく予定。多数原子の集積化で新たに現れる量子現象を明らかにし、また半導体ヘテロ構造と原子集積構造の相互作用を明らかにすることで、整った半導体微細構造を活用した量子コンピュータ素子や次世代の高機能半導体素子への応用を目指している。
(詳細は、www.ntt.co.jp/ www.nrl.navy.mil)