May, 17, 2021, Providence--ブラウン大学の研究チームは、ペロブスカイト太陽電池の長期信頼性改善に向けて大きな一歩を踏み出した。
Scienceに発表された論文で、チームは、セル内部の境界面を劣化から守る“分子接着剤”を実証している。その処置は、セルの安定性と信頼性を長期にわたり飛躍的に高める。一方で、太陽光を電気に変換する効率も改善する。
工学部Nitin Padture教授は、「ペロブスカイトソーラセルのパワー変換効率向上の大きな前進である。しかし、その技術が広範に受け容れられる前に解決しなければならない最終ハードルは信頼性である。長期にわたりその性能を維持するセルを作ることである。それが、研究グループが取り組んできた事の一つであり、われわれは、重要な進歩を報告できて喜んでいる」と話している。
ペロブスカイトは、特定の結晶原子構造の材料クラスである。10年ほど前、研究者は、ペロブスカイトが光を浴吸収することを示した。これによってペロブスカイトソーラセルの怒濤の研究が始まった。それらセルの効率は、直ぐに向上し、今では従来のシリコンセルに匹敵する。違いは、ペロブスカイト光アブソーバはほぼ室温で作られるが、それに対してシリコンは、2700華氏で溶かして成長させる必要がある。ペロブスカイト膜は、Siウエハよりも約400倍薄い。製造プロセスの相対的容易さ、利用材料の少なさは、ペロブスカイトセルが潜在的に、シリコンセルのコストのほんの一部で作れることを意味している。
Padtureによると、ペロブスカイトの効率改善は目覚ましいが、セルのさらなる安定化、高信頼化が課題として残っていた。問題の一部は、セル製造のために必要な層化に関連している。各セルは、5以上の個別層を持ち、各々が電気生成プロセスで違う機能である。これらの層は、異なる材料で造られているので、それらは外力への反応が異なる。また、製造プロセス中、サービス中に起こる温度変化が原因で、一部の層が他の層に対して拡大または縮小する。それが、層界面に機械的応力を生み出し、層の結合が壊れる原因となる。界面が危うくなると、セルのパフォヘマンスが急落する。
その界面の最も弱いところは、光吸収に利用されるペロブスカイト膜と、セルを通して電流を流し続ける電子転送層の間の部分である。
「鎖の強さとは、その最も弱いリンクと同じである。われわれは、この界面がスタック全体の最も弱い環であると特定した。そこで、最も故障が起こりやすい。それを強化することができれば、信頼性の実際的改善が始められる」とブラウン大学、分子・ナノスケールイノベーション研究所ディレクタ、Padtureは説明している。
同氏は、材料科学者としての経験を利用し、航空機エンジンや他の高性能アプリケーションで使用される先進的セラミックコーティングを開発した。同氏のチームは、自己組織化モノレイヤ(SAMs)として知られる化合物の実験を開始した。
「これは、大規模クラス化合物である。これらを表面に堆積させると、分子が単層に自己組織化し、短い髪の毛のように立ち上がる。適切な構造を利用することで、これらの化合物と、あらゆる種類の異なる表面との強力な結合を形成できる」(Padture)。
Padtureのチームは、片側にシリコン原子、反対側にヨウ素原子を持つSAM(self-assembled monolayers)の構成が、電子トランスポート層(普通は酸化スズでできている)とペロブスカイト光吸収層、両方の強い結合を形成できることを確認した。チームは、これらの分子で形成された結合が層界面を強化すると考えた。その考えは正しかった。
「SAMsを界面に導入すると、それが界面の破壊強度を約50%増強することが分かった、つまり界面に形成されるどんな亀裂も迅速に伝播する傾向は見られなかった。したがって、実際、SAMsは、二層を保持する一種の分子接着剤になる」とPadtureは説明している。
ソーラセル機能のテストで分かったことは、SAMsがペロブスカイトセルの機能寿命を飛躍的に改善したことである。研究のために用意されたNon-SAMセルは、700時間のラボテストでそのピーク効率の80%を維持した。一方、SAMセルは、1300時間のテスト後になお強力だった。その実験に基づいて、研究チームは、SAMセルの80%効率寿命を約4000時間にする計画を立てた
「われわれが行った他のことの一つは、一般には行われないことだが、われわれはテスト後、セルを壊して開けた。SAMsのない制御セルで、われわれはあらゆる種類の損傷、空隙や亀裂を見た。しかしSAMsにより、強化された界面は、実際、良好に見えた。それは飛躍的な改善であり、驚いた」と論文に筆頭著者、Zhenghong Daiはコメントしている。
重要な点は、Padtureによると、強靱さの改善が変換効率の犠牲をともなわなかったこと。実際、SAMsは、わずかにセルの効率を改善した。これが起こったのは、SAMsが存在しない二層結合で形成される微小な分子欠陥をSAMsが取り除いたからである。
「機能デバイスの機械的完全性を改善する第1ルールとは、害を及ぼさないことである。したがって、効率を犠牲にすることなく信頼性を改善し、効率までも改善されたことは、驚きであった」
SAMsそのものは、直ぐに利用可能な化合物であり、浸漬塗布法により室温で簡単に適用される。したがってSAMsの付加は、Padtureによると、製造コストには潜在的にほとんど影響しない。
研究チームは、この成功に立脚する計画である。ペロブスカイトソーラセルスタックの最も弱いリンクを強化したので、チームは次に弱い箇所に、さらに次にと移行し、最終的にスタック全体を強化した。その研究は、界面の強化にとどまらず、材料層そのものの強化にも関与する。最近、研究グルーブは、米国DOEから150万ドルの助成を獲得し、研究を拡大していく。
「これは、セルを安価に効率的にする、また性能を改善するために何十年も求められていた種類の研究である」とPadtureは話している。
(詳細は、https://www.brown.edu)