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3DホログラフィックHUDで道路の安全性向上

May, 11, 2021, Cambridge--ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の研究チームは、自動車用途に初のLiDARベースARディスプレイを開発し、同技術のプロトタイプバージョンでテストした。それは、物体を透過することでドライバーの注意を逸らすことなく、潜在的な危険を警告し、道路の安全性を改善する。

ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究者が開発した技術はLiDARをベースにしており、LiDARデータを使って、道路物体の超高精度ホログラフィック表示を生成し、ドライバーの眼に直接ビームを送る。一般的なHUDで利用されているような2Dウインドウスクリーンプロジェクションではない。

同技術は、まだ自動車で試験されてはいないが、ロンドン中心部の交通量の多い道路から収集したデータに基づいた初期テストは、そのホログラフィック画像が、実際の位置にしたがってドライバーの視野に現れ、拡張現実(AR)を実現することを示している。これは、道路標識が大きな樹木やトラックで隠されているときには特に有用である。ドライバーは、視覚的障害を「透過」して見ることができるからである。研究成果は、Optics Expressに発表された。

「ヘッドアップディスプレイ(HUD)が、ネットに接続された車輌に導入されつつあり、通常、スピード、燃料レベルなどの情報が、道路を見ていなければならないドライバーの前のウインドスクリーンに直接表示される。しかし、われわれは、実際の物体をパノラマ的3Dプロジェクションとして表示することで一歩前進したかった」とケンブリッジ工学部Ph.D候補、論文の筆頭著者、Jana Skirnewskajaはコメントしている。

研究チームは、開発システムをLiDARベースとした。LiDARは、スキャナと物体との間の距離を計測するためにレーザパルスを送出することで機能するリモートセンシング法である。LiDARは、農業、考古学や地理学で一般に利用されているが、障害検出のために自動運転車でも試行されている。

LiDARを使って研究チームは、交通量の多いMalet Streetをスキャンした。共著者Phil Wilkesは、通常はLiDARを使って熱帯林をスキャンしている地理学者であるが、同氏は、地上レーザスキャナ技術を使って通り全体をスキャンした。数百万パルスを多数の位置からMalet Streetに送り出した。LiDARデータは、次に点クラウドデータで統合され、3Dモデルを構築した。

「こうして、われわれはスキャンをスティッチし、全景を構築することができる。これは単に木だけでなく自動車、トラック、人々、標識、一般的な街路で見る他のあらゆるものを捉えている。われわれが捉えたデータは、静的プラットフォームからのものであるが、次世代の自律、半自律車輌にあるセンサと同じである」とWilkesは説明している。

Malet Stの3Dモデルが完成すると研究チームは路上の様々な物体をホログラフィックプロジェクションに変換した。点群形式のLiDARデータは、別のアルゴリズムで処理して標的物体を同定、抽出した。もう1つのアルゴリズムを使って、標的物体をコンピュータ生成回折パターンに変換した。これらのデータポイントは、3Dホログラフィック物体をドライバーの視野に投影するために光学セットアップに組み込まれた。

光学セットアップは、先進的アルゴリズムの助けを借りて多層ホログラムを投影できる。ホログラフィックプロジェクションは様々なサイズで表示可能であり、路上の実際の物体を表す位置に配列される。例えば、隠れた道路標識は、障害物の背後の実際の位置との関連でホログラフィック投影として現れ、警告メカニズムとなる。

将来、研究チームは、HUDのレイアウトを個人化することでそのシステムの改善を考えている。また、異なる物体を多層的に投影できるアルゴリズムを作成した。これらの層化ホログラムは、ドライバーの視覚空間で自由にアレンジできる。例えば、第一層では、さらに遠く離れた位置の交通信号を小サイズで投影できる。第2層では、より近い距離の警告信号を大きなサイズで表示できる。

Skirnewskajaによると、この層化技術は、ARエクスペリエンスを提供し、自然な方法でドライバーに警告する。ディスプレイオプションでは、人それぞれの好みがある。例えば、ドライバーのバイタルヘルスサインをHUDの所望の場所に投影することが可能である。

「リアルタイムで道路の物体を示す、パノラマホログラフィックプロジェクトションは、既存の安全手段への価値ある追加である。ホログラフィックは、ドライバーに警告するが、注意散漫にはならない」。

研究者は現在、自動車に収まるように、ホログラフィックセットアップで使う光コンポーネントの微小化に取り組んでいる。セットアップが完了すると、ケンブリッジの公道で車輌テストが行われる。

(詳細は、https://www.cam.ac.uk)