April, 28, 2021, 東京--日本電信電話株式会社(NTT)は、東京大学(東大)国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)副機構長の合原 一幸 東大特別教授(研究開始当時:東京大学 生産技術研究所 教授)と共同で、縮退光パラメトリック発振器(DOPO)を用いて、神経細胞の発火信号(スパイク)を模擬する人工光ニューロンを作成することに成功した。
一般に、ニューロンの発火ダイナミクスは、その外部刺激への応答に基づいて大きく2つのクラスに分類されている。これをホジキンの分類と呼ぶ。研究チームが作り出したDOPOニューロンは、この2種類両方の発火モードを、注入するポンプ光強度の調整という単純な操作で自在に制御可能な特性を有することが分かった。この発火モードの制御を通して、脳型情報処理の重要なパラメータである人工ニューロンの発火頻度を調整することが可能となる。また、一般的なニューラルネットワークでは、1つのニューロンに1つの発火モードが固定で割り当てられているのに対して、このような発火モードを自在で柔軟に制御できるDOPOニューロンの特性は新しい脳型情報処理への応用が期待できる。特に、ホジキンの分類は単純明快な分類であるにも関わらず、発火モードの差異が情報処理に与える影響は神経科学的にも未解明な点が多いため、この謎に挑むための新たな研究のプラットフォームとなることも期待される。
研究ではさらに、240個のDOPOニューロンのネットワークを構築し、集団となったDOPOニューロンの同期現象の観測を行った。その結果、DOPOニューロンは結合したニューロン間の同期を反映して、各々の発火モードを自発的に変化させる性質を持つことが発見された。この自発的変化は、ニューロン単体ではなくその集団が同期によって獲得する特性であり、ポンプ光などのパラメータ調整を必要とせずに集団の同期を促進するように発火モードが自動的に変化する協同現象を意味する。この研究で発見されたこの発火モードの自動調整機能は、同期という物理現象がまるで計算機におけるアルゴリズムのように発火頻度を動的に調整することを意味しており、発火モードの多様性が脳型情報処理に大きな影響を与えることを示唆している。また、発火モードを自在に制御できる集団としてのDOPOニューロンはさらに効率の良い脳型情報処理へ応用できることが期待される。
研究成果は、「Nature Communications」で公開された。
(詳細は、https://www.iis.u-tokyo.ac.jp)