June, 24, 2014, Tokyo--東京大学生産技術研究所、藤岡洋教授は、安価なガラス基板上に低コストでLEDディスプレーの作製を可能とする技術を開発した。
これを可能にするブレイクスルー技術は、原子が不規則に並んだ(非晶質)ガラス基板上にグラフェン層を挿入し、その上にスパッタリング(PSD)でRGBのフルカラーLEDを作製するもので、これによりLEDの製造コストが劇的に安くなり(1/10~1/100にコスト削減)、液晶ディスプレーや有機ELにとって代わる、高性能・高信頼性のディスプレー、通信機能を備えた面発光照明などのアプリケーションが期待できる。
これまで無機半導体を用いた発光ダイオード(LED)は高価なサファイア等の単結晶基板上に、生産性の低いMOCVD法で形成されていた。このため、価格が高く、細かく切ってパッケージに入れた小さなLEDチップとしてのみ利用されてきた。
これまで東京大学生産技術研究所の藤岡洋教授の研究チームは、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業「CREST」の支援を受けて、安価なガラス板の基板上に、生産性の高いスパッタリング法で窒化物半導体(InGaAs)のLEDを作製する技術を開発してきた。また、従来、窒化物半導体のLEDでは紫外域から青色、緑色までの光は発光するが、赤色で発光するものの作製は困難とされていた。今回、研究チームは、半導体形成時の温度を下げることにより、青、緑、赤の3原色のLEDを作製することに成功した。ガラス基板は原子が不規則に並んだ非晶質(アモルファス)と呼ばれる物質で、この上に結晶質の窒化物半導体を積むことは困難。今回、ガラス基板と窒化物半導体の間に炭素の2次元物質であるグラフェン(マルチレイヤ)バッファ層を挿入した。グラフェンは非晶質基板の上でも一定の方向を向いているため、良質な結晶の窒化物半導体を形成することが可能となった。この高品質な窒化物半導体を用いて、今回RGBフルカラーのLEDの試作に成功した。
この成果により安価なガラス板上に信頼性の高いフルカラーのディスプレーを実現できるようになり、表示部分を変形することができるディスプレー(フレキシブルディスプレー)にも応用可能である。また、窒化物半導体のLEDは応答速度が速いため、通信機能を備えたディスプレーなどへの展開も期待される。この他にも、LEDは高価なため点光源としてのみ利用されてきたが、安価なこの開発技術を用いるとやわらかな光源である面発光照明へ応用される可能性も高まる。新技術は単に現在広く使われている液晶や有機ELを代替する技術としてだけではなく、その用途の幅は広いといえる。
藤岡教授によると、現在PSDで作製したLEDは、従来のMOCVD法で作製したLEDにパフォーマンスの点でわずかに及ばない。今後は、パフォーマンスの改善に取り組み、実用化を目指す。
(詳細は、「Scientific Reports」6月23日 :Fabrication of full-color InGaN-based light-emitting diodes on amorphous substrates by pulsed sputtering )