December, 25, 2020, 東京--量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学部門関西光科学研究所の小出明広博士研究員、野村拓司上席研究員、稲見俊哉グループリーダーは、磁石を構成する無限個の原子の周期性とその中を動き回る電子の金属的な性質を取り扱った新たな理論を構築し、実験で発見された「X線磁気円偏光発光」のメカニズムを理論的に明らかにすることに成功した。
「X線磁気円偏光発光」は、2017年に研究グループの稲見グループリーダーが新たに発見した磁気光学効果であり、磁石にX線を当てた際に内部で発生する蛍光X線が左回り円偏光と右回り円偏光という二つの成分を持っていて、それぞれの成分の大きさの比(偏光度)が磁石の向きや強さにより変化する現象。この蛍光X線の偏光度を正確に測ることができれば、磁石の中にある原子や電子の状態を知ることができ、磁石の特性の理解につながると期待される。しかし、これまで使われてきた、原子1個のみを考える簡易的なX線発光の理論モデルでは、現実的な磁性金属内の電子状態・磁性状態を考慮できないことに加え、そもそもX線発光に及ぼす金属磁性の詳細な影響についての理論はいまだ構築されていなかった。
今回、研究グループは、結晶状に周期配列した無限個の原子の中で磁気特性を有して動き回る金属電子の状態を考慮した新たなX線発光理論を構築した。この理論を基に数値計算した結果、X線磁気円偏光発光の実験結果の特徴を精度よく再現することに初めて成功し、その特徴が電子の金属性に由来することを証明した。今回新たに構築した理論は、X線発光分光の金属性物質への応用を促進させ、その適用範囲を拡大させるものであり、X線磁気発光分光学という新たな学術領域を切り拓く、学術的に重要な成果である。X線磁気発光分光学の進展やそこで得られた成果は、高性能な磁石や磁性材料の開発へとつながっていくことが期待される。
研究成果は、Physical Review B誌のオンライン版に、同誌が選ぶ特に重要な論文である“PRB Editors’ Suggestion”として掲載された。
(詳細は、https://www.qst.go.jp)