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極低温の計測を可能にする量子温度計

October, 8, 2020, 沖縄--沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者たちは、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)、トリニティ・カレッジ・ダブリン(Trinity College Dublin)との共同研究で、単一の原子を温度計に見立てて、冷却原子ガスの温度を高感度測定する量子プロセスを記述した。

「量子物理学者として、われわれの最終目標は、絶対零度に限りなく近いシステムを作成し測定することである。絶対零度とは温度の下限で、約マイナス273℃(0ケルビン度)であり、粒子の運動が止まる温度である。極低温システムは、量子技術の活用や、量子実験のノイズ低減を実現する上で重要になる」と、Physical Review Letters誌の注目論文(Editor’s Suggestion)として発表された研究の共著者であり、OIST量子システム研究ユニットを主宰するThomas Busch教授は話している。「0ケルビン度からわずか数百億分の1度上の温度の微細な変化を検出できることは、非常に重要な意味を持つ」。

通常、室温では1023個以上の原子が最高300~400m/secの速度で動き回っている。「部屋の温度を測定する場合、すべての原子の動きを測定する必要はない。温度計を使えばよう。量子システム内のすべての原子の速度を測定することは原理的には可能であるものの、われわれは量子温度計を使った、よりシンプルで優れた手法を設計したいと考えた」と、量子システム研究ユニットのDr. Thomás Fogartyは説明している。

しかし、量子システムを温度計で測るのは容易ではない。量子システムは、宇宙に自然に存在するどんな場所よりも寒く、また極小で、ガスの中には約10万個の原子しか存在しない。仮に温度計が大きすぎたり温かすぎたりすると、測定対象のガスを加熱され、システムの量子性を破壊する。したがって研究では、温度計自体も非常に小さく冷たいものにするために、極冷却された単一原子を用いた。

システムにこの温度計原子を加えると、まず温度計原子は2つの異なるエネルギー状態で同時に存在する。これは量子システムに特有の、直感では理解しにくい性質である。しかし、温度計原子が冷却原子ガスと相互作用すると、異なるエネルギー状態の重なりが崩壊する。この崩壊が起こる速度は、測定中の冷却原子ガスの温度に直接関わっているため、温度計原子の状態を測定することで、冷却原子ガスの温度を正確に推定することができる。

「このプロセスは、ガスとの相互作用によって温度計原子の『量子性』を本質的に破壊し、量子システムのための温度計として完成する」とDr. Fogartyは説明した。

研究者たちはまた、最大限に感度を上げ、ノイズを低減するため、最適な測定タイミング、および温度計原子とガス間に起こる相互作用の理想的な強さについても説明している。ガスが低温であるほど、単一原子とガスが相互作用する速度は遅くなり、頻度も下がるため、量子性の崩壊が起こる速度は遅くなる。「そのため、極低温で温度を測定するには測定前に長時間待たなければならない。弱い相互作用を必要するのは、信号を最大化しノイズを最小化するためである」(Dr. Fogarty)。

研究チームは現在、機械学習を用いて、温度計原子とガスの相互作用を最適化したり、システムに導入する温度計原子を増やして複雑な量子相互作用が起きるようにするなど、感度向上のために様々な方法を探っている。

「この新たな手法は測温の限界を押し広げ、それは量子技術の重要なアプリケーションになる。これが近い将来、実験に使用されることを期待している」とBusch教授は話している。

(詳細は、https://www.oist.jp/)