September, 1, 2020, 東京--東京農工大学 大学院工学研究院の宮地悟代 准教授とゲッチンゲン・レーザ研究所(Laser-Laboratorium Göttingen、ドイツ)のJürgen Ihlemann博士の研究チームは、同大学大学院生の髙谷竜禎と高橋一世、同研究所のLukas Janos Richter博士とともに、ガラスの一種である「シリコン亜酸化物」表面に、高強度のフェムト秒レーザパルスを照射するだけで、周期が200~330nmのナノ構造体を表面から直接削り出だせることを発見した。この現象をうまく利用すると、一般的に光学部品の材料として使われているガラス表面に、これまでにない光制御機能を与えることができると期待される。
ガラスの一種である「シリコン亜酸化物」薄膜を溶融石英基板上に堆積させた加工試料を作製した。次に、この試料表面に高強度のフェムト秒レーザパルスを長焦点のレンズを用いて集光・照射。その結果、集光スポット中心付近全体に周期が200~330nmのナノ構造体が自己組織化的に形成できることを観測した。このとき、レーザ照射部は他のガラス材料の場合と比べて一桁以上小さいエネルギー密度だった。さらに、この現象の仕組みを調べたところ、高強度のフェムト秒レーザパルスによって、シリコン亜酸化物表面内に高密度の電子が発生し、それによって電子の集団振動(表面プラズモン・ポラリトン)が励起され、それに付随して生じる高強度の光近接場によって固体表面が直接削り取られることを、実験と理論計算の結果により明らかにした。
今回発見した現象を利用すると、ガラス表面にフェムト秒レーザパルスを照射するだけで数10 nmから数100 nmの溝や穴を掘ることができるため、複雑なプロセスや薬剤が不要な微細加工技術の実現が期待される。また、レーザ光を照射する位置を変えるだけで加工部分を移動できるため、加工材料の大きさに制限がなく、メートルサイズの領域へのナノ加工も容易。このような大面積領域にナノメートルサイズの微細加工を行える技術は他にはなく、例えば、メタマテリアル表面形成、構造色表面加工、MEMS用表面加工、広帯域の無反射表面形成、照明光源の指向性表面形成、X線用光学素子作製、構造化光発生用素子作製などへの応用も期待される。
研究成果はnanomaterialsに発表された。
(詳細は、https://www.tuat.ac.jp)