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ETH-Zurich、STM技術を利用して精密回折格子を作製

July, 6, 2020, Zurich--ETH-Zurichの研究チームは、ナノメートル精度で波状面を作製する方法を開発した。将来この方法は、例えばインターネットのデータ伝送用の、効率的でコンパクトな光コンポーネント作製に使える。

インターネットは、光ファイバで世界中に大量のデータを送り出すために、膨大な量の光パルスから力を得ている。

これら光パルスの操作と制御のために、様々な技術が利用されている。最も旧いが最も重要なものの一つが回折格子である。これは、様々な色の光を正確に決まった方向へ偏向させる。何十年間も研究者は、回折格子の設計と製造を改善しようとしてきた。狙いは、今日の要求が厳しいアプリケーションに合うようにするためである。ETH-Zurichでは、機械・プロセス工学部教授、David Norrisが、効率的で、より精密な回折格子が製造できる全く新しい方法を開発した。

溝による干渉
回折格子は干渉の原理に基づいている。光波が溝付の表面に当たると、多くの小さな波に分かれ、それぞれが個々の溝から出る。これらの波はその表面を離れると、いっしょになるか相殺し合うかのいずれかである。これは、波が進む方向とその波長に依存する。

回折格子が適切に機能するには、その溝が光の波長と同じように分離されている必要がある。1µm程度である。「伝統的に、その溝はマイクロエレクトロニクス産業の製法を用いて材料表面にエッチングされている。しかし、これは、グレーティングの溝の形状が方形になることを意味する。一方、物理学によると、溝は、湖のさざ波のように滑らかな波状パタンでなければならない」と論文の筆頭著者、Nolan Lassalineは説明している。従来法で作製された溝は、したがって、大雑把な近似でしかない、つまりその回折格子では光の操作が、あまり効率的にできない。完全に新しいアプローチを追跡することで、研究チームは、その問題に対するソリューションを発見した。

ホットプローブによる表面パタニング
 そのアプローチは、Zurich起源の技術を基づいている。「われわれの方法は、40年ほど前にGerd Binnig とHeinrich Rohrerが発明した走査型トンネル顕微鏡(STM)のひ孫である。両氏は、後にノーベル賞を受賞している」(Norris)。そのような顕微鏡では、材料表面は、高分解能プローブの鋭い先端で走査される。その走査から得られる画像は、材料の個々の原子さえも示すことがてぎる。

しかし、逆に、そのする同先端を使って物質にパタンを描き、波状面を作ることもできる。そのために、研究チームは走査プローブの先端を約1000℃に加熱し、それをポリマ表面の特定場所に押しつけた。これにより、その位置のポリマ分子が壊れ、蒸発する。したがって、精密な表面彫刻が可能になる。この方法で、研究チームは、ほぼ任意の表面プロファイルを1点ずつポリマ層に、数ナノメートル分解能で描くことができる。最終的に、ポリマにシルバー層を堆積することで、そのパタンは光学材料に転移される。シルバー層は、次にポリマから分離され、反射型回折格子として利用される。

「これによりわれわれは、シルバー層にわずか数原子間の精度で、任意の形状の回折格子を作製することができる」(Norris)。従来の方形溝と違い、そのようなグレーティングは、もはや近似ではなく、実際に完璧である。また、反射光波の干渉が、正確な制御可能なパタンを作れるように成形できる。

多様なアプリケーション
そのような完璧なグレーティングにより、光をコントロールする新たな可能性が開かれ、アプリケーションの幅は広がる。「その新技術は、例えば、微小なグレーティングを集積回路に構築するために利用できる。これによりインターネットの光信号が効率的に送信、受信、ルーティングできる」(Norris)。Lassalineは、「一般に、われわれはそのような回折格子を使って、オンチップマイクロレーザなどの非常に小さな光デバイスを作ることができる」とコメントしている。同氏によると、このような微小デバイスは、超薄型カメラレンズから、鮮明な画像のコンパクトなホログラムまでと幅広い。それらは、光学技術で広範な影響が期待できる。例えば、未来のスマートフォンカメラ、バイオセンサ、ロボットや自動運転車の自律的視覚などである。

(詳細は、https://ethz.ch/)