June, 24, 2020, Cambridge--ハーバード大学、Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences (SEAS)の研究者、Federico Capassoをリーダーとする国際研究チームは、光乱流を利用して、以前には不可能と考えられていた系で、特殊タイプの高精度レーザ、レーザ周波数コムを実現した。研究成果は、光分光学やセンシングなどのアプリケーション向けの新世代デバイスで利用可能となる。論文は、Natureに発表された。
周波数コムは、優れた精度で、様々な光周波数を検出、計測するツールに広く用いられている。従来のレーザは単一周波数を発するが、それとは異なり、これらのレーザは、櫛の歯のように均等間隔、ロックステップで多数の周波数を発する。今日、周波数コムは、環境モニタリング、化学センシングから、太陽系外惑星の探査、光通信、高精度計測やタイミングまで至る所で利用されている。
CapassoとSEASのチームは、通信やポータブルセンシングを含むアプリケーション向けに、これらのデバイスをもっと効率的に、コンパクトにしようとしている。
2019年、チームは、レーザ周波数コムからワイヤレス信号を伝送する方法を考案し、初のレーザ無線トランスミッタを作製した。チームは、非常に小さなKit Katバーのような形の半導体量子カスケードレーザ(QCL)を利用した。これは、端から端まで光を跳ね回らせることで周波数コムを生成する。この跳ね回る光は逆伝搬波を生成し、それらは相互作用して、様々な周波数コムを作り出す。しかし、これらのデバイスは、無線通信アプリケーションでは使われない多くの光を放出した。
論文の筆頭著者、以前のSEASポスドクフェロー、Marco Piccardoによると、問題は「レーザ無線に適した形状をどうするか」だった。同氏は、現在、ミラノのIstituto Italiano di Tecnologiaの研究者。
研究チームは、リング量子カスケードレーザを利用した。これは円形であり、非常に低損失のレーザ光を生成する。しかし、周波数コム生成となると、リングレーザには一つの基本的な問題があった。その問題を克服するためにチームは、リングに小さな欠陥を導入し、結果を一群の欠陥なしのリングと比較した。
しかし、研究者が実験を行うと、結果は皆を驚かせた。
以前の物理学理論では周波数コムを生成できないということだった完全なリングが、周波数コムを生成したのである。
研究の共同著者、ウィーンのTU Wien研究者、Benedikt Schwarzは、「その成功は、現在のレーザ理論と矛盾するように見えた」とコメントしている。
研究チームは、そのような現象がどのように起こるかを説明しようとして、乱流に行きついた。流体では、整然とした流体流がどんどん小さな渦になるとき、それらは相互作用して最終的に系はカオスになる。光では、これは波の不安定性の形になり、そこでは小さな混乱がどんどん大きくなり、最終的に系の動力学を支配する。
研究チームは、レーザの励起に使用される流れの小さな変動が光波における小さな不安定性を起こすと考えた。これは完全なリングレーザでも起こる。その不安定性が大きくなり、まさに乱流に見られるように、他と相互採用する。すると、その相互作用が、安定した周波数コムの原因となる。
「われわれは、レーザ周波数コムの形状を変えただけではない。われわれは、これらのデバイスを作る全く新しい系を見つけたのである。そうすることで、レーザの基本法則作り直した」とPiccardoは話している。
今後、これらのデバイスは、集積フォトニック回路上で、電気励起マイクロ共振器として利用されるかもしれない。今日のチップスケールマイクロ共振器はパッシブであり、エネルギーは外部から光励起される必要がある。するとシステムサイズが大きくなり、複雑になる。しかし、リングレーザ周波数コムはアクティブであり、それに電流を注入することで独自の光を生成できる。それは、マイクロ共振器でカバーされていない電磁スペクトル領域へのアクセスも可能にする。これは、光分光法や化学センシングなどのアプリケーションでで役立つ。
「パッシブマイクロ共振器とアクティブ周波数コムの結合で、これは初の重要なステップである。これら2つのデバイスの利点を統合することは、重要な基本的、技術的意味を持つ」とCapassoは話している。
(詳細は、https://www.seas.harvard.edu)