Science/Research 詳細

極紫外自由電子レーザによる非線形内殻二重空孔状態の観測に成功

May, 25, 2020, 名古屋--名古屋大学大学院理学研究科の伏谷瑞穂准教授,菱川明栄教授,富山大学教養教育院の彦坂泰正教授,理化学研究所と高輝度光科学研究センターの共同研究チームはX線自由電子レーザ施設SACLAから得られる強いレーザ光を利用して,2光子吸収による内殻二重空孔状態に由来する電子スペクトルの観測に成功した。

極紫外域やX線領域の強いレーザ光を照射された物質は,それを構成している原子に強く捉えられた内殻電子が関与する非線形光学応答を示す。内殻電子が関与する典型的な非線形光学応答である多光子多重イオン化過程では,内殻空孔の崩壊がイオン化とともに連鎖的に進行し,それぞれのイオン化経路に応じて様々な価数のイオン種および多数の電子が放出されることがわかってきた。しかし,こうした複数の経路が関与するイオン化機構をイオンまたは電子のみの観測によって詳細に理解することは容易ではなかった。

研究グループは磁気ボトル型光電子分光器を用いた多電子−イオンコインシデンス計測を導入することで,それぞれのイオン化過程に由来する電子状態を精密に決定する手法を確立した。研究グループは極紫外・X線領域における非線形光学応答を調べる際のベンチマークとして用いられるキセノン(Xe)原子を対象とし,多数の電子ピークが幅広く重なった光電子スペクトルの中から内殻二重空孔状態に由来する電子ピークを見出し,その関与が多光子多重イオン化を大きく増強していることを明らかにした。内殻二重空孔状態は,分子内の局所的な化学環境に敏感であることが知られている。今回導入した測定手法は,様々な物質群の極紫外・X線領域の非線形現象の基礎的理解を深めることを可能とするとともに,原子配置に敏感な新たな局所化学分析法の基盤技術として役立つことが期待される。
(詳細は、http://www.nagoya-u.ac.jp/)