May, 19, 2020, 札幌--北海道大学大学院理学研究院の景山義之助教らの研究グループは,光照射下で継続的に分子構造を変換する「アゾベンゼン」という分子の結晶の運動が,受ける光の特性によって大きく変わることを明らかにした。
2016年のノーベル化学賞は,「分子マシンの設計と合成」に対して与えられた。分子マシンの一つに,与えられたエネルギーを力学的な運動に変換させることが期待される分子モーターがある。しかし,合成化学的に得た分子モーターで何かを永続的に駆動させることは未だに難しく,分子モーターがわれわれの社会にどのような貢献をするのかは,未知数と言わざるを得ない。
研究グループは,光をエネルギー源として自律的にリズム運動(反復運動)する小さな結晶について研究を行っている。今回の研究では,まず,アゾベンゼン分子の結晶の中での分子の並び方を明らかにした。結晶の中では,それぞれ異なる方向を向いた6個のアゾベンゼン分子が一組を形成し,その組が整列してした。さらに,エネルギー源である光に偏光を用いることで,結晶の反復運動が多様に変化することを見いだした。この運動を解析した結果,結晶中の6個のアゾベンゼンには,周期運動の動力源になる「分子モーター」として機能するものと,偏光の向きを感知し折れ曲がる向きを調整する「分子センサ」として機能するものがあることを明らかにした。この成果は,踊る(リズミカルに動く)という動作を可能にする分子モーターと,偏光を感知して”振り付け”をアレンジする分子センサとの”分業協力体制”で,多彩な踊りをみせる化学的な小さなロボットを世界で初めて実現した研究になる。今後,感知の次段階として,複数の情報を感知しその情報を演算して自分の動きを決定する「情報演算型自律運動材料」の実現が期待される。
研究成果は, Chemistry – A European Journal誌に掲載された。
(詳細は、https://www.hokudai.ac.jp)