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励起分子からの赤外放射で組織成分検出

April, 30, 2020, München--アト秒物理学研究所(Laboratory for Attosecond Physics)の研究者は、生物サンプルの分子成分を分析する独自のレーザ技術を開発した。それは、有機組織の化学構成の最小変動を検出できる。

生化学レベルでは、有機物は、異なる分子種の複合的集合と考えることができる。代謝作用中に生物細胞は化学物質を合成し、それらを多種多様な方法で変える。これらの産物の多くは、細胞間媒質に放出され、血液のような体液に蓄積される。生化学研究の1つの大きな目的は、これら非常に複雑な分子混合物から、関心のある有機体の状態について知ることである。全ての分化した細胞タイプが、この「スープ」に寄与する。しかし、前ガンおよび悪性細胞は、それ独自の特殊な分子マーカーを付加する。これらは、体内の腫瘍細胞の存在を最初に示すものである。しかし、これまでこれらの指示分子は、ほとんど特定されなかった。また、既知のものも生物サンプルには微量にしか現れない。このため、検出が極めて難しい。

 最も有益な分子シグネチャの多くは、細胞に見つかるあらゆる多様なタイプの分子(タンパク質、糖、脂肪およびその多様な波生物)に属する複合物の組合せであると考えられる。それらを定義するために、それら全てのレベルを検出し、計測でるだけの多様性と感度がある単一の分析法が必要とされている。 

Ferenc Krausz教授をリーダーとする学祭チームは、この目的のために特に設計された新しいレーザベースのシステムを構築した。グループは、Laboratory for Attosecond Physics (LAP)にある。同研究所は、LMU and the Max Planck Institute for Quantum Optics (MPQ)が共同運営しており、物理学者、生物学者、データ科学者が含まれている。このシステムにより、赤外光スペクトル形式で化学的フィンガープリンが得られる。これは生体起源のサンプルも含め、あらゆる種類のサンプルの分子成分を明らかにする。その技術は比類のない感度を実現し、全ての既知の種類の生体分子に利用できる。

新しいレーザ分光計は、当初超短パルスレーザ製造向けにLAPで開発された。これは、サブアトミックシステムの超高速動力学研究に用いられる。計測器は、物理学者、Ioachim Pupezaのチームが構築したものだが、一連の高強度レーザパルス放出用に設計されている。レーザ光は、赤外波長で広いスペクトル範囲をカバーする。これらの各パルスは、数フェムト秒の時間幅である。赤外光の極短閃光は、原子を架橋する結合の振動原因となる。その効果は、音叉を打つのと類比的である。パルスが過ぎると、振動分子は非常に特徴的な波長で、つまり振動周波数でコヒレント光を放射する。その新しい技術により、放射波長の完全な全体を捉えることができる。サンプルの全ての明確な成分が特定の周波数で振動するので、それ固有の明確に定義された「サブスペクトル」は放射が原因ということになる。いかなる分子種も隠れるところがない。

「このレーザにより、われわれは、分子の振動を刺激する6~12µmの広い範囲の赤外波長をカバーできる。質量分光法と違い、この方法は、生体サンプルにあるあらゆる種類の分子へのアクセスを提供る」とLAPで行った実験に関わった研究の筆頭著者、Marinus Huberは説明している。

分子励起に使用される超短レーザパルスの各々は、光場のわずかな振動で構成される。さらに、パルスのスペクトル輝度(フォトン密度)は、従来のシンクロトロンによって生成されるものより二倍高い。シンクロトロンは、これまで分子分光法への同等アプローチとして機能していた。加えて、赤外放射は、空間的、時間的にコヒレントである。これら物理的パラメータのすべてがともに、新しいレーザシステムの非常に高い感度の主要因であり、非常に低濃度で存在する分子の検出を可能にし、高精度分子フィンガープリント生成を可能にする。それだけでなく、0.1mm厚の生きた組織サンプルが初めて、赤外光で照射され、前例のない感度で分析された。最初の実験では、LAPのチームはその技術を、血液サンプルとともに葉や他の生きた細胞に適用した。「体液の分子成分における振動を正確に計測する能力は、生物学や医学で新たな可能性を開く。また将来的には、その技術は、疾患の早期検出でアプリケーションを見出すことになる」とZigmanは話している。

(詳細は、https://www.uni-muenchen.de)