April, 22, 2020, 東京/大阪--生命科学や医療分野では、細胞や細胞内小器官の形態や細胞構成分子の分布を複数の顕微鏡を用いて観察し、生命現象の解明や病気の診断が行われている。その中でも、生体分子を蛍光標識し、細胞内の動態を顕微鏡で観察する手法は広く利用されているが、蛍光物質を結合させることで生体分子の生理活性を阻害したり、標識をつけた分子を細胞内に入れるために細胞の一部を壊したりしてしまう課題があった。生体分子を非標識(ラベルフリー)、つまり生きたままの状態で観察できる顕微鏡(ラベルフリー顕微鏡)の開発が求められていた。
これまでのラベルフリー顕微鏡には、細胞の形態を詳細に測る定量位相顕微鏡と、生体分子の分布を測る分子振動顕微鏡の大きく2種類がある。しかし、それらの顕微鏡では“細胞の形態”もしくは“分子の分布”のいずれか一方の計測しかできない。東京大学大学院理学系研究科の井手口拓郎准教授らは、可視光で高解像形態画像を計測する定量位相顕微鏡技術と、赤外光で分子振動を計測する分子振動分光技術を融合した新しいラベルフリー顕微鏡(赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡)の開発に成功した。この新しい顕微鏡技術は、細胞を破壊することなく、従来困難であった細胞の詳細な形態情報と分子分布情報の同時計測を実現できるため、医療や生物学における新たな細胞計測ツールとして利用されることが期待される。