May, 20, 2014, Wako--北海道大学、サウサンプトン大学、理化学研究所(理研)、関西学院大学、京都大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)は、X線自由電子レーザ(XFEL)施設「SACLA」を用いて、ナノワイヤ中の超高速構造変化を原子レベルで観察することに成功した。
これは、北海道大学電子科学研究所のMarcus C. Newton助教(現英国サウサンプトン大学講師)、西野吉則教授、理研放射光科学総合研究センターの田中義人ユニットリーダー(現 兵庫県立大学教授、理研客員研究員)らの研究成果。
二酸化バナジウムは、温度や光などの外部刺激によって、電気的特性や原子の配置が変化する相転移を起こす。この性質を利用し、スイッチング(電気回路のON/OFF)素子やアクチュエータ(駆動素子)への応用が期待されている材料。しかし、光刺激による二酸化バナジウムの相転移は、超高速で起こるため、実験的にも理論的にも解析する手法が限られており、その機構はいまだに明らかにはなかった。
研究グループは、10フェムト秒(fs)程度の極めて短い発光時間と、原子レベルの変化を捉えることが可能なコヒーレントなX線であるというXFELの2つの特長を利用して、二酸化バナジウムナノワイヤ中の、過渡的かつ原子レベルの超高速構造変化を観察することに成功した。観察には、ポンププローブ法とコヒーレントX線回折を組み合わせた、先端的手法が用いられた。
この研究により、XFELが、原子レベルの超高速構造変化を観察できる優れた能力を持つことが示された。これにより、物質中の原子・分子を超高速動画撮影する画期的な技術へ道が開かれ、強相関電子材料が示す高温超伝導などの多彩な相転移現象の解明に貢献することが期待できる。
二酸化バナジウムは、電子の強い相関により、金属絶縁体相転移という極めて興味深い現象を起こすことが知られている物質。相転移温度である67.9℃よりも低温では電気を通しにくい絶縁体、高温では電気を良く通す金属になる。この金属絶縁体相転移に伴い、原子の配置も変わる。二酸化バナジウムの相転移は、温度によるもののみでなく、光を当てても起きる。二酸化バナジウムに発光時間が極めて短い超短パルスレーザを当てると、超高速で相転移が起こり、この性質を利用した超高速のスイッチング素子やアクチュエーターへの応用が期待されている。
研究では、二酸化バナジウムナノワイヤ中の原子レベルの超高速構造変化をポンププローブ法とコヒーレントX線回折を組み合わせた先端的手法を用いて観察した。測定は、XFEL施設「SACLA」を用いて行った。
ポンプ光であるチタンサファイアレーザ(波長800nm、パルス幅(発光時間)30fs程度)で二酸化バナジウムナノワイヤを刺激し、引き起こされる過渡的な超高速構造変化を、プローブ光である X 線自由電子レーザ(波長0.1428nm、パルス幅10fs程度)で捉えた。測定では、チタンサファイアレーザの照射からXFELの照射までの時間差(遅延時間)を変化させ、様々な遅延時間でのコヒーレントX線回折パターンをマルチポート CCD検出器を用いて計測した。
遅延時間の測定間隔は2.5ピコ秒(ps)。各データ点は25発のXFEL照射を積算して得た。コヒーレントX線回折パターンの中心角は、チタンサファイアレーザを照射した直後に急激に減少し、その後、よりゆっくりと減少した。この結果は、バナジウムの原子ペア間の距離が急激に広がり、その後、バナジウム原子ペアがよりゆっくりと変形したことを示唆する。また、コヒーレントX線回折パターンの中心角が、振動する様子も観察された。これは、ナノ結晶中を伝わるコヒーレントフォノン(超短パルスレーザの照射によって引き起こされる、足並み(位相)の揃った原子の集団運動)によるものと解釈できる。
遅延時間が0秒と62.5psのコヒーレントX線回折パターンを比較すると、遅延時間が62.5psのコヒーレントX線回折パターンは、中心位置が低角に変位したのみではなく、パターンが縦に延びていることが分かる。これは、格子面間隔の膨張に伴い、ナノ結晶中に歪みが生じていると解釈できる。
今回の研究により、XFELを用いた、ポンププローブ法とコヒーレントX線回折を組み合わせた手法が、ナノ結晶中の原子レベルの超高速構造変化を観察するのに有効であることが示された。
(詳細は、www.hokudai.ac.jp)