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相対論効果を用いたレーザ核融合方式実証

December, 25, 2019, 大阪--大阪大学大学院工学研究科の羽原英明准教授、Tao GONG博士研究員らの研究グループ及び、田中和夫欧州極限レーザ核科学研究所長(兼大阪大学特任教授(常勤))、大阪大学レーザ科学研究所、米国ロチェスター大学レーザエネルギー研究所所属の研究者らで構成された国際共同研究チームは、大阪大学レーザ科学研究所の大型レーザ装置GXII/LFEXを用いた共同実験を行い、高強度レーザを高密度爆縮プラズマに直接照射し、加熱媒体であるレーザ加速電子ビームが高密度プラズマを加熱している様子を世界で初めて明らかにした。

米仏で主流のレーザ核融合の「中心点火」方式では、核融合燃料を高エネルギーレーザで圧縮することで燃料中心部を高温化し、燃料を点火、燃焼させてエネルギーを取り出す方式。しかし近年の研究では燃料の流体混合が原因で核融合燃料点火が起こらないという問題に直面している。一方、この研究で用いている「高速点火」方式は高強度レーザを注入することで燃料点火温度まで加熱するためこの問題を回避することができ、現在の主流に替わる手法として注目されている。

「高速点火」方式では、まず①複数のナノ秒(10億分の1秒)レーザを用いて核融合燃料を予め高密度に圧縮し、②外部からピコ秒(ps)の高強度レーザを照射し、ピコ秒程度で瞬間的に加熱することで、③核融合反応を点火し、燃料の大部分を燃焼させ、エネルギーを生み出す。

通常、レーザ核融合の高密度燃料は数ミリメートルにもなる低密度プラズマに覆われており、燃料を加熱するためには高強度レーザはその低密度プラズマ中を燃料近傍まで通り抜ける必要がある。しかしその際に様々な不安定性が励起されてレーザエネルギーが散逸することが予想されており、大阪大学を中心としたグループは2001年にコーン・シェル・ターゲットを利用して燃料加熱を実証[R. Kodama et al., Nature, Vol. 412, pp. 798-802 (2001).]した。これによりコーン・シェル・ターゲットを用いて世界各国で研究が繰り広げられたが、レーザ照射の対称性を崩する上、燃料に不純物を含むことになり、燃料の構造も複雑化することでコストアップも懸念されている。

今回、研究グループは、高強度レーザのプラズマ中における相対論的効果を利用することにより、低密度プラズマ中を安定に加熱レーザエネルギーが伝搬し、加熱媒体である高エネルギー電子が燃料を加熱する様子を明らかにした。実験での条件では加熱レーザから高密度プラズマへ与えられるエネルギーの割合はおよそ1%だったが、実験結果とシミュレーションを用いた解析により、高強度レーザやプラズマの条件を最適化することで12%以上が見込まれることも示した。これによりレーザ核融合燃料を点火し、燃焼できるようになることが期待できる。

研究成果は、Nature Communicationsに、発表された。
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)