July, 26, 2019, 名古屋--名古屋大学、理化学研究所などの共同研究グループは、褪色に極めて強いミトコンドリア蛍光標識剤「MitoPB Yellow」を開発し、ミトコンドリアの内膜構造を超解像STED顕微鏡によって、生きたまま鮮明に可視化することに成功した。繰り返しの撮影でも褪色しないことから、経時的な内膜の形態変化を追跡することも可能である。
ミトコンドリアは、内膜と外膜に囲まれた二重膜構造になっている。内膜は「クリステ」と呼ばれ、内側に折り畳まれたひだ状の構造をとることによって細胞に必要なエネルギー産生の効率を高めている。このクリステ構造の観察には、透過型電子顕微鏡を用いる手法が最も一般的だが、生きた細胞には適用できない。これに対し、光の回折限界を超える分解能で微細構造を可視化する「超解像顕微鏡」を用いると、細胞が生きたままの状態で細胞小器官を観察することができる。しかし、超解像顕微鏡でミトコンドリアのクリステ構造を可視化するには、従来のミトコンドリア標識剤では内膜のみを染色できないことが問題。加えて、光照射によって蛍光色素が著しく褪色してしまうため、クリステの構造変化をつぶさに観察し続けることができなかった。
今回、共同研究チームは、極めて高い光安定性をもつ超耐光性ミトコンドリア蛍光標識剤「MitoPB Yellow」の開発に成功した。MitoPB Yellowは、ミトコンドリア内膜に存在するタンパク質と結合し、強く発光するという性質をもっている。STED顕微鏡技術とあわせることにより、細胞が生きたままの状態でクリステ動態を鮮明に捉えることに成功した。ミトコンドリアの形態は、細胞のエネルギー代謝のみならず、パーキンソン病やミトコンドリア病などの神経変性疾患とも深く関連することから、診断薬としての応用や治療薬開発ツールとしての利用が期待される。
研究成果は、米国科学雑誌Proceeding of the National Academy of Sciences オンライン版に掲載された。
(詳細は、http://www.s.u-tokyo.ac.jp/)
研究グループ
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の 山口茂弘教授、多喜正泰特任准教授、物質科学国際研究センターの 王晨光(Chenguang Wang)研究員、理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)の 岡田康志 チームリーダー(東京大学大学院理学系研究科、東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN))。