May, 1, 2014, 東京--東京大学などの国際研究グループは、新たな原子膜材料として注目される二セレン化タングステン(WSe2)の電界効果トランジスタ(FET)を用いて、電圧によって左右の回転方向を制御可能な円偏光光源を実現した。
研究グループは、東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターの岩佐義宏教授(理化学研究所創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)、同研究科物理工学専攻 岡隆史講師、オランダのフローニンゲン(Groningen)大学 叶劍挺准教授からなる国際研究グループ。
電圧によって制御可能な円偏光光源は、3D ディスプレイや量子情報の担体として非常に期待されており、物質科学、フォトニクスの両面から研究が盛んに行われてきた。この成果はWSe2の特異な構造と電子の状態を利用し、電圧によって左回りと右回りの円偏光を切り替えることが可能な円偏光光源の原理を提案・実証している。
WSe2の FET は、粘着テープ(セロハンテープ)を用いてグラフェンのFETと同様な方法によって作製。大きさは数ミクロン角程度。今回は、ゲート絶縁膜として、従来の二酸化ケイ素(SiO2)や酸化アルミニウム(Al2O3)などの酸化膜ではなく、イオン液体による電気二重層を用いた。この手法によって、FETのチャネル内に誘起できる電荷の密度を飛躍的に向上させることができ、デバイス動作の極限状態に簡単に到達できる。
WSe2は、電子が抜けることによって生じる正の電荷(正孔)も注入できる両極性型のFET動作をすることが知られており、FETに適切なゲート電圧を加えることによって PN接合を形成した。一般的なPN接合は半導体結晶中に不純物を導入することで形成されるが、今回の特徴はFETにおけるゲート電圧によってPN接合を形成したことにある。このPN接合をダイオード(LED)とみなし、順方向電圧を加えると電流注入発光が起こり、それが円偏光していることを発見。
このPN接合は、電圧によって形成されたものであるため、加える電圧の符号を反転するとPN接合の向きが反転し、流れる電流も逆になる。この時、円偏光の向きも反転することが実験的に明らかになった。従来の理論では電流を流したことによる円偏光発光を説明することはできなかったが、この研究では、外場が存在するときの電荷分布のずれを考慮した新たなモデルを構築し、観測された現象が理論的に起こりうることを確認した。 この研究で、電圧による制御が可能な微小円偏光光源を、従来とは全く異なる原理、物質に内在するキラリティを利用して実現する原理を提案し、実証した。
この研究成果により、最近ポストグラフェン材料として注目を集めている原子層物質、二セレン化タングステン(WSe2)が、原子数層の極薄構造を持ち、円偏光を電場で変えられる発光デバイスとして動作することが明らかになった。現状では、円偏光度の制御はまだ十分なものではないが、デバイス作製技術の向上により、さらに大きな円偏光の度合いを制御できるようになることが期待される。今後、「キラル発光トランジスタ」といえる新しいタイプのデバイスとして、高度集積化を通した応用研究、単一光子源として基礎研究に寄与していくことが予想される。
(詳細は、www.t.u-tokyo.ac.jp) (研究成果は、米国科学雑誌『Science』の速報版(Science Expressに掲載)