April, 30, 2014, München--ミュンヘン工科大学Technische Universität München(TUM)とルートヴィッヒマクシミリアン大学Ludwig-Maximilians-Universität München(LMU)の研究チームは、新たな光学顕微鏡技術を開発し、傷ついた神経系だけでなく健全な神経系の「酸化ストレス」の役割を明らかにした。新しいイメージング技術によって、生きたニューロンの酸化還元シグナリングや活性酸素種(ROS)の役割をリアルタイムで見ることができる。
ROSは重要な細胞内シグナル伝達分子であるが、その作用機構は複雑である。低濃度では細胞機能と振る舞いの重要な働きを調整するが、高濃度では「酸化ストレス」を起こし、これが細胞小器官、膜組織、DNAを損傷する。酸化還元シグナリングが単一細胞や細胞小器官でどのように展開するかをリアルタイムで分析するために、LMU Martin Kerschensteiner教授とTUM Thomas Misgeld教授(両者ともMunich Cluster for Systems Neurologyの研究者)が新しい光学顕微鏡技術を共同開発した。Kerschensteiner教授によると、このアプローチによって生体組織内の重要な細胞小器官、ミトコンドリアの酸化還元状態を視覚化できる。ミトコンドリアは細胞の発電所と言われており、栄養素を使えるエネルギーに変換する。以前の研究で両教授は、ミトコンドリアの酸化損傷が硬化など炎症性疾患で軸索破壊に関係している証拠を得た。
今回の新しい方法により研究チームは、個々のミトコンドリアの酸化状態を空間的、時間的高分解能で記録することができる。Kerschensteiner教授はこの技術開発の背景となる動機を、「酸化還元シグナルは重要な生理学的機能であるが、損傷を起こすこともできる。例えば免疫細胞の周辺で高濃度になったときだ」と説明している。
研究チームは緑色蛍光タンパク質(GFP)の酸化還元に感度がある変種を視覚化ツールとして使用した。「これらを他のバイオセンサや生体染色色素と組み合わせて、ミトコンドリア酸化還元シグナルとミトコンドリアカルシウム電流、ミトコンドリア膜の電位とプロトン勾配の変化を同時にモニタできるアプローチを確立することができた」(Thomas Misgeld氏)。
研究チームはこの技術を2つの実験モデルに適用し、予想外の識見を得た。一方、ほ乳類の神経系における神経損傷、ここでは脊髄損傷に応じた酸化還元シグナル誘導を初めて調べることができた。観察で分かったことは、軸索切断がミトコンドリアの酸化の波になること、これは損傷箇所から始まり神経に沿って伝搬する。さらに、軸索切断箇所でカルシウムの流入が見られた。これはミトコンドリアの機能損傷に続いて起こり、極めて重要である。
この新しい研究結果で最も意外だったのは、論文の筆頭著者、Michael Breckwoldt大学院生が、初めてミトコンドリアの自然発生的な縮小を撮像できたことである。これはその小器官の酸化還元の急変にともなうものである。「これは、フェイルセーフシステムのようであり、ストレスに反応して起こり、ミトコンドリアの活動を一時的に減衰させる。病的な状態では、この縮小はさらに長引き、回復不能になる可能性がある。究極的には神経突起に回復困難な損傷となる」とMisgeld氏は説明している。
(詳細は、www.tum.de)