February, 21, 2019, 東京--東京工業大学、株式会社リコー、産業技術総合研究所の研究グループは、消費電力が極めて低い小型の原子時計を開発した。この原子時計は、構成部品のひとつである周波数シンセサイザの消費電力を大幅に削減し、さらに新たな量子部パッケージを用いることで温度制御の効率を向上させ、60mWという低消費電力と15cm3という極小サイズを実現している。
高精度でありながら2mWという超低消費電力な周波数シンセサイザの実現および新たな量子部パッケージによる温度コントロールの効率化で、60mWの超低消費電力な小型原子時計(ULPAC:Ultra-Low-Power Atomic Clock)の開発に成功した。開発した小型原子時計は、消費電力を大幅に削減しながら、大型の原子時計とほぼ同等の1日で300万分の1秒以下の精度を達成した。この原子時計は、電圧制御水晶発振器、周波数シンセサイザ、レーザドライバ回路、制御回路、セシウム133原子へのレーザ光照射を行う量子部パッケージで構成される。
CPTを利用した原子時計では、セシウム133原子に2つの周波数のレーザ光を照射する。この2つのレーザ光の周波数差がセシウム133原子に固有の共鳴周波数(9,192,631,770Hz)に一致したときに、検出される光強度が最大となる。これを利用して電圧制御水晶発振器を校正し、原子時計の基準となる非常に安定した周波数を作りだしている。
周波数シンセサイザは、レーザ光の周波数差を0.3mHz以下の非常に細かい周波数ステップで変えるために用いられ、従来、原子時計の構成要素において50mW以上の大きな電力を占める構成部位だった。開発した原子時計は、周波数シンセサイザをCMOS集積回路で作りこむことで、消費電力を25分の1以下まで削減することに成功、2mWの消費電力を達成した。
さらに、新たな量子部パッケージの構造を採用し、ヒーターによる温度制御の際に、外部の温度が伝わりにくくなるような隔離機構を設けるとともに、パッケージ内部を金でコーティングした。温度制御の効率を向上させることで、電力を消費しがちなヒーターの消費電力を9mWまで削減した。高安定レーザドライバ回路および高精度温度制御回路により長期間での周波数安定性も改善した。
従来の周波数標準器では、消費電力と周波数安定度はトレードオフの関係にあったが、開発した原子時計(ULPAC)は、良好な周波数安定度と低い消費電力を両立しており、サイズも15cm3と非常に小型。今回、105秒(約1日)の平均化時間で2.2×10-12の長期周波数安定度を達成した。一般的な水晶発振器を搭載した時計と比べ、約10万倍も正確な時計を実現した。
研究成果は、国際会議ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference <国際固体素子回路会議>2019)で発表された。
(詳細は、https://www.aist.go.jp/)