February, 6, 2019, 東京--青山学院大学長谷川美貴教授、静岡大学山中正道准教授、JST石井あゆみ さきがけ研究員、高輝度光科学研究センター(JASRI)河口彰吾研究員、九州大学先導物質化学研究所五島健太助教、システム・インスツルメンツ(株)高橋浩三博士は、高い規則性を有する1分子厚のソフトクリスタルを湿式法で積層していく方法を用い、レアアースの直線偏光発光性が有機分子層の光励起による遷移モーメントにより促されることを発見した。
研究成果は、英国王立化学会ならびに仏国化学会が発行する「New Journal of Chemistry」に掲載された。
レアアースの直線偏光発光を促すための5つの条件を満たす分子性超薄膜を開発した。
1.強い遷移モーメントを有すること、2.レアアースにエネルギー移動させるπ電子系有機分子が平面であること、
3.この有機分子がレアアースと直接結合すること、
4.この有機分子が石けんの性質(両親媒性)を持つこと、
5.この有機分子の発光が青色領域であること、の条件を実現し、特にユウロピウムの赤色発光(主に616 nm付近)に偏光特性を発現させた。
湿式法でユウロピウムを含む分子膜を5層積層し、紫外線下で目視できるほどの輝度を有するユウロピウムの赤色発光を促す系を構築した。この薄膜は大型放射光施設SPring-8の粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)の放射光X線回折によって累積された膜間距離を明らかにし、さらに光導波路分光法による偏光吸収スペクトルにより配位子の芳香環に局在化した遷移モーメントを決定した。これにより、直線偏光発光は水面で薄膜にする際の加圧の程度で変化し、これは積層の変化だけでなく膜の崩壊限界にも関わることを見出した。本系では、表面圧30-35 mN/m程度が偏光発光を示す薄膜形成に適している。
ユウロピウムの代わりにガドリニウムを用いた薄膜から有機分子に局在化した偏光発光を観測した。また、偏光子を取り付けた光導波路分光スペクトルにより、膜内での有機分子は傾いて配向しながら配列している。本来f軌道の電子雲に異方性を持たないレアアースが膜内で結合することでこの有機分子の配向に従い遷移モーメントが移し取られ、レアアースからの発光に偏光がもたらされることを証明した。
光の色(波長)や強度(輝度)とならび、未来志向の材料設計に偏光を組み込むことは素材の多様性に大きく寄与する。偏光発光は、のぞき見防止フィルタや、セキュリティインクなど、実用に向けた可能性も期待される技術。
今後は、配位子の精緻な設計と合成により、偏光発光の向きを自在に操作できる仕組みを開発すべく研究を進める。
(詳細は、https://www.kyushu-u.ac.jp)