January, 10, 2019, 東京--量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学研究部門の福田祐仁上席研究員と京都大学の岸本泰明教授のグループは、共同研究により、水素クラスター(マイクロメートルサイズの“球状”固体水素)に高強度のレーザ光を照射して、宇宙線の加速機構と考えられている衝撃波加速と類似の仕組みを利用することで、0.3ギガ電子ボルト(GeV = 109 eV)の高品質の陽子線が発生することを発見し、新奇な陽子線加速手法として提案した。
宇宙には、宇宙線として知られる高エネルギー粒子を生成する天然のプラズマ加速器がる。一例として、恒星が寿命を迎えたときに起こる超新星爆発で見られる衝撃波による加速が知られている。このような衝撃波は、地上では高強度のレーザ光を物質に照射することで発生させることが出来る。
研究グループは、松井隆太郎氏(京都大学大学院生)を中心に大規模計算機シミュレーションを行い、高強度のレーザ光をクラスタに照射した場合に、球表面に発生した衝撃波が球の中心に向かって伝播・収束する過程でその強度が約8倍に増強されることを発見した。また、その増強された衝撃波によって、レーザ光の進行方向に陽子線が短時間で効率よく高エネルギーに加速されることを確認した。さらに、加速されている陽子線に対して、相対性理論の効果でクラスタの中心部まで侵入したレーザにより後押しされて圧縮される効果と、クラスタ外部のプラズマが作る電場により追加速される効果を同期させ、相乗的に加えることで、最終的に光速の65%に相当する0.3 GeVのエネルギーをもった指向性の高い陽子線が発生することを突き止めた。
研究成果は、レーザを用いた陽子線を高効率、高品質で光速近くまで加速することの出来る加速器の実現につながる新たな知見である。今後、高エネルギーの陽子線を供給する技術として、粒子線がん治療装置の陽子線源としての応用や、物質の水素脆化や放射線損傷のメカニズムを探る研究などへの応用へ繋がることが期待される。また、高エネルギー宇宙線の起源を解明する研究の一助となることも期待される。
研究成果はPhysical Review Letters (R. Matsui, Y. Fukuda, Y. Kishimoto)の電子版に掲載予定である。
(詳細は、http://www.qst.go.jp)