August, 2, 2018, Washington--ドイツのBecker & Hickl, GmbHの研究チームは、細胞レベルで生物学的プロセスの研究に使用される強力な蛍光イメージング技術の機能を改善した。
以前には、わずか数ミリメートルの範囲のサンプルに限られていたが、拡張アプローチは、最大4平方センチメートルまでの範囲のサンプルを分析することができる。さらなる開発により、この新アプローチは、臨床現場でも、手術中に腫瘍の端を特定する、感度のよい正確な方法として、用途がある。
新しいマクロスケールイメージングアプローチは、蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM)として知られる生体イメージング技術に基づいている。「われわれのマクロFLIMシステムは、サンプルの構造情報を取得するだけでなく、サンプル内に生ずる一定の生物化学プロセスの観察もできる」と同社の研究者、Vladeislav Shcheslavskiyは説明している。「われわれの目標はこれを臨床利用にすることであるが、病気が進行する生体プロセスの検査、多様な治療タイプに対する生体反応の研究など、基礎研究にも非常に有用である」。
Optics Lettersに発表された研究成果によると、研究チームは、細胞レベルの解像度と分子感度をもつ、マクロFLIMシステムベース初の共焦点顕微鏡を実証した。研究チームは、それを使って生きたマウスの腫瘍内部全体の代謝プロセスを観察した、これは現在のFLIMシステムでは不可能な偉業である。新システムは、Becker & Hickl GmbHのエンジニアと物理学者、ロシアのPrivolzhskiy Research Medical Universityの生物学者との密接な協働により作製された。
生物学的および臨床的サンプルに加えて、その新しいマクロFLIMシステムは、大面積の他のサンプルの分析にも利用可能である。例えば、復元を必要としている絵画に使用されている溶剤特定に非破壊的方法を提供する。
蛍光からより多くの情報を取得
FLIMは、自然な蛍光分子、蛍光タグ、組織に付着させた「ラベル」蛍光減衰、つまり寿命の正確な計測に関与する。寿命は分子の環境特性、温度やpHに依存する、また他の周辺分子との相互作用に依存するので、FLIMを使って分子の特性、その微小環境についての情報をとることができる。
一般に、FLIMはレーザスキャニング共焦点顕微鏡を使って動作する。これは、画像を形成するためにレーザビームを蛍光サンプルにスキャニングすることで高解像度を達成している。マクロスケールでFLIM情報を得るために研究チームは、共焦点マクロシステムを開発した。これは、わずかピコ秒の極短パルスのレーザと、蛍光を検知するための超高感度ディテクタを組み込んでいる。同システムは、フォトンをカウントし、その分布を、レーザパルスとサンプル上のレーザビームの位置から時間との関連でプロットするエレクトロニクスも組み込んでいる。
Shcheslavskiyは、「ピコ秒レーザ、高感度で高速のディテクタ、高速シングルフォトンカウンティングエレクトロニクスともに、慎重な光学設計により、マクロスケールで蛍光寿命を高精度記録することができた」と言う。
共焦点顕微鏡は一般に、わずか数ミリのイメージング領域に制限されるが、サンプルをマクロスキャナの真ん中に置くことで、研究チームは、より大きなサンプルの撮像ができた。次に、サンプルの大きな領域に渡り、フォトン分布をプロットして、マクロスケールの蛍光寿命情報を取得した。
ガン組織のテスト
マクロFLIMシステムの細胞解像度を実証するために、研究チームは、直径14.6µm、蛍光色素でラベリングされた生きた培養ガン細胞を撮像した。
次に、生きたマウスの腫瘍全体を分析するためにマクロFLIMシステムを使用した。研究チームは、これとともに遺伝的にエンコードされた赤い蛍光タンパク質の蛍光寿命も同時計測した。これにより、腫瘍の位置、ニコチアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NADH)、生きた細胞のエネルギー製造に関与する分子を特定した。
「われわれのシステムは、NADHなどの内在組織成分の蛍光をラベリングなしで観察できるほどに高感度である。腫瘍の代謝研究に利用されるだけでなく、マクロFLIMを使って細胞の死、腫瘍の酸素状態を細胞レベルの解像度でマクロスケールに追跡できる」とShcheslavskiyはコメントしている。
臨床アプリケーション用のシステムを開発するために研究チームは、その柔軟性と可動性に取り組んでいる。また、マクロFLIMシステムとスキャニングステージの統合も考えている。これは、サンプルを動かして、FLIMが10×10㎝のエリアで使えるようにするためである。