June, 5, 2018, 札幌/熊本--北海道大学電子科学研究所の笹木敬司教授らの研究グループは、熊本大学の深港 豪准教授との共同研究で、金属のナノサイズ空隙にナノ粒子を非接触で捕集し、ワンステップで配置・固定する新技術を開発した。
金属のナノ空隙には光を閉じ込める効果(光ナノアンテナ効果)があり、この閉じ込めた光は物質を引き寄せる力(光圧)を発生させる。このナノ空隙の光の力を利用して、さまざまな機能を持つ分子で作ったナノ粒子を液体中で空隙に捕集し、金属で発生した熱によって固定することを実現した。
光る分子や電気整流作用のある分子のナノ粒子を金属のナノ空隙に配置することによって、ナノサイズの分子エレクトロニクス素子、ナノ粒子の量子効果を用いた光演算素子、分子の特性を超高感度に検出する装置などへの応用が期待される。
今回新たに開発した技術では、まず、ナノサイズの金の空隙を最先端微細加工技術により作製する。この金ナノ空隙構造はレンズの働きを持っており、光を照射すると光がナノ空隙に絞り込まれ閉じ込められて、極めて強い光のスポット(絞り込む前の1万倍以上の明るさ)を形成する。強力なナノ光スポットは、液体中に漂うナノ粒子を引き寄せるのに十分な力(光圧)を発生させることができ、ナノ粒子をナノ空隙に非接触で捕集することが実現できた。さらに、光の照射で温度が上昇した金ナノ空隙構造は、光圧で捕集したナノ粒子をわずかに溶かして接着し固定することを可能とした。今回の実証実験では、深港准教授の研究グループが作製した極めてよく光る有機分子のナノ粒子を、金のナノ空隙にワンステップで捕集・配置・固定することに成功した。電子顕微鏡で観察すると、金のナノ空隙にナノ粒子が固定されており、この分子特有の色をした強い光を発することが確認された。
光る分子のナノ粒子を金属のナノ空隙に配置すると発光が増強される効果が報告されており、この手法によりナノサイズの強力な光源を開発することができる。また、ナノ空隙を周期的に並べると、光の波が揃う超放射と呼ばれる現象が起こり、さらに強力な発光源としての応用が期待される。分子の数を減らして 1 個の分子をナノ空隙に捕集・固定することが実現できれば、単一分子エレクトロニクス素子の作製や、分子の量子特性を利用した光量子情報処理・通信デバイスとしての応用も可能。また、極微量の分子・ナノ粒子でも捕集してナノ空隙の強力な光スポットで分析することができるため、超高感度分子センサとしての実用化も期待される。
(詳細は、www.hokudai.ac.jp)
研究成果は、ACS Omegaに発表されている。