April, 27, 2018, Washington--Science Advancesに発表された論文によると、ワシントン大学(UW)の研究チームは、2つの異なるイメージング法を統合することに成功した。光波とナノスケール相互作用するように設計されたレンズタイプとロバストなコンピュータ処理を統合してフルカラー画像を生成する。
研究チームの超薄型レンズは、メタサーフェスとして知られる人工物の一部。メタサーフェスは、メタマテリアルの2Dアナログである。メタマテリアルは、通常自然界にはない物理的、化学的特性を持つ人工材料である。メタマテリアルベースのレンズ、つまりメタレンズは、光波と相互作用するように設計されたフラットな微細パタン材料面でできている。今日まで、メタレンズで撮る鮮明な画像は、せいぜい可視光スペクトルのほんの一部でしかない。しかしワシントン大学(UW)のチームのメタレンズは、コンピュータフィルタリングと連動して、可視光域で非常に低い収差レベルで、フルカラー画像を生成する。
製造されたガラスまたはシリコーンの代わりに、メタレンズは、コラムやフィンなどのナノスケール構造の繰り返しアレイで構成されている。これらの微小スケールを適切に設計すれば、この構造が従来型レンズではできない精度で個々の光波と相互作用する。メタレンズは,非常に小さく薄いので、嵩張るカメラレンズや高解像度顕微鏡と比べて占めるスペースは大幅に小さい。
メタレンズは、コンピュータチップ製造に使用される半導体製造工程と同じ種類の製法で作製する
「メタレンズは、所定の光波長で性能が出るように設計、製造できるので、光学イメージングでは、潜在的に価値のあるツールである。しかし、それは欠点でもある。メタレンスの各タイプは狭い波長範囲内でしか高い性能を発揮しないからである」とUW電気工学博士課程学生、論文の筆頭著者、Shane Colburnはコメントしている。
メタレンズで画像を生成する実験では、これまでの最適波長範囲は非常に狭かった。せいぜい60nm幅程度で高効率である。しかし,可視光スペクトルは300nm幅である。
今日のメタレンズは一般的に、その狭い最適範囲、オールグリーン画像あるいはオールレッド画像などで正確な画像を生成する。その最適範囲を外れる色を含むシーンでは、画像はぼやけ、解像度が劣化し、「収差」として知られる他の欠点が現れる。
研究チームは、単一のメタレンズが全ての可視光波長で画像の均質な一連の光学収差を生成するなら、コンピュータフィルタリングアルゴリズムを使用して全ての波長の収差を後で解決できると仮定した。青い花瓶に挿した薔薇では、この種のメタレンズは、赤い薔薇、青い花瓶、緑の茎の画像をすべて同じ種類の色収差で捉える。これは後でコンピュータフィルタリングを使って処理できる。
研究チームは,微小なナノメートル幅のシリコンナイトライド列で表面が覆われたメタレンズを設計、製造した。これらの列は、全可視光スペクトルで光を回折できるほどに小さく、400~700nmの波長範囲をカバーする。
決定的な方法で、研究チームは、メタレンズが「スペクトル不動点広がり関数」を示すように、メタレンズのSiNコラムの配列とサイズを設計した。基本的に、この特性によって、全可視スペクトルで、画像が同じタイプの数式で記述できる収差を含むことが保証される。数式は光波長に関係なく同じであるので、研究チームは同じタイプのコンピュータ処理を適用して収差を補正できる。
次に研究チームは、その設計に基づいてプロトタイプメタレンズを作製し、コンピュータ処理と組み合わせた時のメタレンズの性能をテストした。画像品質の1つの標準的計測は、「構造的類似性」である。これは、同じシーンの2つの画像がいかに良く光度、構造、コントラストを共有するかを記述する測定基準。1つの画像で色収差が高ければ高いほど、それが他の画像と共有する構造的類似性はますます低くなる。研究チームは、従来のメタレンズを使用したとき、同じパタンの赤と青の画像を比較し、構造的類似性74.8%を達成した。しかし、新しいメタレンズ設計と計算処理を使うと、構造的類似性は95.6%に上昇した。とは言え、研究チームのイメージングシステムの総厚は200µmであり、これは現在の携帯電話カメラよりも2000倍程度薄い。
UWチームのアプローチは、他の多くのメタサーフェスベースのイメージングシステムと違い、光の偏光状態の影響を受けない。
研究チームによると、この方法はメタレンズ作製、またさらなるコンピュータ処理ステップの設計のロードマップとして役立ち、光をより効果的に捉えることができるようになり、コントラストが鋭くなり、解像度が改善される。微小な、次世代のイメージングシステムの実現を可能にする。
(詳細は、http://www.washington.edu/)