April, 25, 2018, 東京--慶應義塾大学の末松誠客員教授、同医学部 医化学教室の山本雄広専任講師らの研究グループは、富士フイルム株式会社 先端コア技術研究所の塩田芽実研究員、納谷昌之研究主幹らとの共同研究により、表面増強ラマンイメージング(Surface-enhanced Raman Spectroscopy Imaging: SERS imaging)を用いて、マウス凍結病理組織切片におけるがん部と非がん部の代謝プロファイリング解析を行い、両者の違いを統計的に分析することによって、がんの所在を非標識・無染色で自動的に可視化することに成功した。
SERS imagingは金のナノ粒子をランダムに敷き詰めた特殊基板に近赤外レーザ光を照射することによって発生する近接場光(強力な電磁場の増強スポット)を利用し、基板上の生体試料に含まれる各種の代謝物の原子間振動を反映するラマン散乱光を増強して、代謝物の2次元画像として検出する先端技術。
がん細胞には細胞増殖や細胞死の制御に関わる硫黄原子を含有する機能分子が豊富に含まれており、それらは金ナノ粒子と相互作用することによって固有の原子間振動を反映したラマン散乱光を発生させる。ラマン散乱光を画像化することで生体試料の2次元上のどの位置に機能分子が存在するか可視化することができる。これまではがん細胞の形態や核の特徴に着目した組織染色により病理診断を実施されてきたが、検体処理過程に生じる酸化などが正確な解析を困難にする原因だった。研究グループは、がん部と非がん部のSERS imagingを用いることによって非標識・無染色の凍結組織でがん部の検出を可能とした。
病理医の診断所見とラマン散乱光のプロファイリング所見のマッチングによる解析技術は、がんの質的自動病理診断の実現につながる道を開いた。
研究成果は、Nature Communicationsオンライン速報版で公開された。
(詳細は、www.jst.go.jp)