February, 19, 2018, Washington--オーストラリアの研究チームは、安定した周波数基準を信頼性よく標準光ファイバ通信ネットワークで300km以上伝送し、2つの電波望遠鏡を同期するために使用できることを初めて実証した。
安定した周波数基準により、時計や計測器を校正し、超精密計測を実施する。このような周波数基準は、通常、高価な原子時計を使って周波数基準を生成する施設でしか利用できない。新技術を使うと、研究者はどこにいても、通信ネットワークに入るだけで周波数基準を利用することができる。
安定した周波数基準を通信ネットワークで伝送する能力は、Square Kilometer Array(SKA)のような電波望遠鏡アレイでは特に有用である。SKAは、オーストラリアと南アフリカでアレイを使い世界最大の電波望遠鏡を構築する国際的な取り組みである。完成すると、SKAは、ハブル(Hubble)望遠鏡よりも約50倍の感度で深宇宙の微弱電波を検出する。個々の電波望遠鏡がリンクされて全体で約100万平方メートルの収集域を実現する。
電波望遠鏡を接続してアレイにするには、各望遠鏡が正確な時間を記録する原子時計を利用することが必要となる。宇宙の物体からの信号は、その正確な時間で検出される。全ての望遠鏡の焦点を同じ物体に合わせ、次に各望遠鏡から届く信号のわずかな時間差を計算することで研究者は、観察の全てを統合し、物体の位置や他の特性を正確に示すことができる。安定伝送された基準を使い、各望遠鏡で相対時間を校正すると、電波望遠鏡アレイにおいて多数の原子時計を不要にすることができる。
オーストラリアの研究所コンソーシアムの研究チームは、ファイバリンクで2つの電波望遠鏡間安定周波数基準の伝送成功をOpticaに報告している。また、その技術の性能は各望遠鏡で原子時計を利用するよりも優れていることも実証している。
研究成果は、その技術が光ファイバネットワークにおける信号の揺らぎを補償できることを示している。信号の揺らぎは、温度変化や振動などの環境要素によってもたらされる。実証は、同時に通信のライブトラフィックを伝送しているネットワークでも行われた。
ライブネットワークトラフィックでテスト
「通常のトラフィックを伝送している光ファイバで実験を行うことで、安定した周波数基準の伝送が他のチャネルのデータまたは電話に影響を与えないことを示した。これは、こうしたファイバネットワークを保有する通信会社の協力を得るために必要である」とオーストラリア国立大学の研究チームのメンバー、Kenneth Baldwinはコメントしている。
重要な点は、その新技術が光ファイバネットワークのその他の部分になんら大きな変更を必要とせず、簡単に実施できることである。伝送中に周波数安定を維持するために、研究チームは信号をネットワークで目的地まで伝送し、次に送り返した。戻ってくる信号を使って、なんらかの変化が生じているかどうかを判断した。各往復の後、計測された変化を正確に補償するために伝送された任意の周波数変動をパッシブに抽出した。
100kmのファイバ全てで、往復にかかる時間は1ミリ秒(ms)。補償プロセスが非常に速く起こるとしても、受信端の時間は、往復伝送中にドリフトすることがあり得る。この問題を解決するために、遠隔地点の水晶振動子が、往復伝送の間、時間を定時に維持する。
「水晶振動子の周波数も結局はドリフトするので、われわれ独自のプロセスは、短い時間長で、局所安定化と水晶振動子とを組み合わせる。より長い安定化は、つまり往復時間を超えると、伝送された安定周波数基準技術で与えられる。周波数基準を伝送するこの極めて安定的な方法により、コストが20万ドル程度の原子時計は、わずか数万ドルのシステムに置き換えることができる」とBaldwinは話している。
長距離伝送の実証
その方法を実証するために研究チームは、CSIRO Australia Telescope Compact Array (ATCA)に設置された水素メーザとして知られる一種の原子時計で始めた。メーザからの無線周波数基準信号をレーザビームにインプリントし、それが155km AARNetファイバと複数の増幅段を第2の電波望遠鏡まで伝送され、戻ってきた。補償プロセスが始まると、基準が接続の他端の電波望遠鏡で取得された。
研究チームは、安定周波数基準を使って、両方の望遠鏡を校正し、望遠鏡は宇宙の同じ物体の分析に利用された。これで分かったことは、安定周波数信号が望遠鏡の性能を制限するというのではなく、2つの場所の間の大気の違いが制限要因であるということである。大気の干渉を除去し、新方法が望遠鏡の性能をどの程度改善したかを理解するために、研究チームは、計測のために、2つの個別のレシーバに設置されたATCAの1台の望遠鏡アンテナを使った。この「スプリットアンテナ」法により、水素メーザで安定化された1つのレシーバを、ファイバで往復310km伝送された安定周波数基準で安定化された他方のレシーバと比較することができた。
「われわれの実験により、伝送された周波数基準が非常に安定的であることが分かった。地球の大気よりも著しく安定的である。原子時計から安定周波数信号に置き換えるわれわれのアプローチは、非常にわずかな差がある2つの原子時計と、少なくとも同等の性能であった」とBaldwinはコメントしている。