November, 22, 2017, 和光--理研を中心とした共同研究グループは、、X線自由電子レーザ(XFEL)施設SACLAにおいて、生体内で起こる化学反応を可視化する技術を開発した。
酵素は、生体内でさまざまな化学反応を行っている。そのメカニズムを知るには、酵素の構造とその変化を原子レベルで見ることが不可欠。しかしこれまで、反応前や反応後など酵素が止まっているときの構造はX線結晶構造解析によって明らかになってきたが、酵素が反応している最中の構造を見ることは困難だった。
共同研究グループは、光を照射すると酵素が作用する分子(基質)を放出する「ケージド化合物」と、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」の高品質なX線を組み合わせることで、酵素が反応している最中の構造を原子レベルで見る技術を開発した。まず、ケージド化合物を浸み込ませた酵素の結晶に光(パルスレーザ)を照射し、ケージド化合物から基質を放出させる。次に、放出された基質と酵素の反応中にSACLAのX線を照射してX線結晶構造解析を行う。照射するパルスレーザーとSACLAのX線は時間的に同期しているため、反応開始から任意のタイミングで酵素の姿を捉えることができる。
今回は、この技術をカビの中で一酸化窒素ガス(NO)を亜酸化窒素ガス(N2O)に変換する一酸化窒素還元酵素に応用した。この酵素は鉄原子を含んでおり、その鉄原子上で酵素反応が起こる。酵素とNOの反応開始から0.02秒後の状態を解析し、酵素がNOを取り込む瞬間の構造を捉えることに成功した。N2Oはフロンに次ぐオゾン層破壊ガスで、二酸化炭素ガス(CO2)の300倍の温室効果があるため、一酸化窒素還元酵素の反応機構の解明が求められている。
この技術を用いることで今後、さまざまな酵素の働く仕組みが解明され生命現象の理解が進むだけでなく、新薬の設計や開発などへの応用も期待できる。
(詳細は、www.riken.jp)