November, 21, 2017, 東京--NII、NTT、東京大学の研究グループは、光の量子力学的な特性を用いて最適化問題の解を高速に得る「量子ニューラルネットワーク(QNN)」を装置化し、長時間安定動作を実現。QNN計算装置をインターネット経由でユーザーが使用できる「QNNクラウドシステム」を構築した。QNNを用いた大規模最適化問題の高速計算は一般ユーザーへ公開される。
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の山本喜久 プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、日本電信電話(NTT)NTT物性科学基礎研究所 量子光制御研究グループの武居弘樹 上席特別研究員、本庄利守 主任研究員らのグループ、情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)情報学プリンシプル研究系の河原林健一 教授、加古敏 特任准教授らのグループ、および東京大学生産技術研究所 合原一幸 教授、神山恭平 特任助教らのグループは、光の量子的な性質を用いた新しい計算機「量子ニューラルネットワーク(QNN)」をクラウド上で体験できるシステムを開発し、2017年11月27日より公開する。
インターネット、無線通信システム、交通システムなど、社会における様々なネットワークやシステムが大規模化・複雑化する現在、これらの最適化・効率化が重要な課題となっている。QNNは、光パラメトリック発振器と呼ばれる新型レーザの量子力学的な特性を生かして、様々な最適化問題の解を従来の計算機に比べて飛躍的に高速に得る新しい計算機。今回、これまで光の実験装置であったQNNをデータセンタ等に設置できる筐体に納め、光回路の安定化制御機構の導入により長時間安定に動作するQNN計算装置を開発した。さらにユーザーがインターネットを介してQNN計算装置を使用できるQNNクラウドシステムを構築した。これにより、QNNを用いた大規模最適化問題の計算メカニズムを、一般のユーザーが体験することが可能となる。
量子ニューラルネットワーク(QNN)
量子ニューラルネットワークは、光パラメトリック発振器(OPO)と呼ばれる新型レーザの量子力学的特性を用いて最適化問題を計算する。長い光ファイバリング中に配置された位相感応増幅器と呼ばれる光増幅器をオン・オフすることで、数千個に及ぶ多数のOPOパルスを生成する。このOPOパルス間に、解きたい問題に対応する相互作用を入れると、多数回の周回の後にOPOパルス群は全体として最も安定となる位相の組み合わせをとり、これが問題の答えとなる。ImPACTプログラムでは、1kmの光ファイバリング中で発生した2000個のOPOパルスの間に、測定・フィードバックにより任意の相互作用を導入することで、最大2000要素の最適化問題を瞬時にして解くQNNを2016年に報告している。
研究グループは、これまで大規模な光学実験装置であったQNNをデータセンタ等に設置できる筐体に納めたコンパクトなQNN計算装置を開発した。また、従来のQNN実験では、温度変動による1kmの光ファイバの長さ変動によりOPOパルスが不安定化するため、長時間の安定動作は困難であったが、新しいQNN計算装置では、光学システムの温度安定精度の向上と共振器位相のフィードバック制御の改良により長時間安定動作を実現し、1週間以上にわたり安定して大規模最適化計算が行えることが確認されている。
(詳細は、www.ntt.co.jp)