July, 28, 2017, 東京--東京大学は、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)との共同研究により、従来と比較して光損失を10分の1に低減し、5倍の効率で電気信号を光信号に変換できる世界最高性能の半導体光変調器の開発に成功した。この光変調器は、膨大な情報を高速で通信するデータセンターやIoT、人工知能といった分野で重要なシリコン光集積回路の大幅な省電力化と小型化に貢献できる。
成果は、2017年7月24日(英国時間)、英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に公開された。
NEDOプロジェクトの「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」において、東京大学は、PETRAとの共同研究で、新たな光変調器の開発を進めてきた。東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の竹中充准教授らは、従来のシリコン光変調器と比較して、光の損失を10分の1に低減し、5倍の効率で電気信号を光信号に変換できる世界最高性能の半導体光変調器の開発に成功した。
シリコン光導波路上に、光学特性に優れた化合物半導体の一種であるインジウムガリウムヒ素リン(InGaAsP)を貼り合わせることで、InGaAsP中の電子により誘起される屈折率変化のみを用いた光変調動作を世界で初めて実証した。InGaAsP中での電子誘起屈折率変化はシリコンと比べて10倍以上大きいことは知られていたが、正孔の光吸収による損失が非常に大きく、従来の技術では電子の効果のみを引き出すことが極めて困難であり、光変調には適していなかった。今回、アルミナ(Al2O3)を介して、InGaAsPをシリコン上に貼り合わせた構造を実現したことにより、電子の効果のみを用いて光変調することが可能になった。
実証に成功した素子の光位相変調部は、二酸化ケイ素上にシリコン層が形成されたSOI(Silicon on Insulator)基板上に作製されたシリコン光導波路上にゲート絶縁膜となるアルミナを介して薄膜インジウムガリウムヒ素リンが貼り合わされた構造となっており、光位相変調部に電気信号を入力することで光の位相が変調され、光変調信号が出力される。
凸状に加工されたシリコンと化合物半導体層は近赤外光を閉じ込められる光導波路として機能する。シリコン層と化合物半導体層の間にゲート電圧を印加すると、化合物半導体とアルミナの界面に電子が蓄積され界面近傍の屈折率が減少する。これにより入力された光の位相が変調され、電気信号を光信号に変換することができる。
結果として、従来のシリコン光変調器に比べ、光損失を10分の1に抑制しつつ変調効率を5倍に高めることに成功した。また、多値変調による100Gbpsの高速変調においても良好な光信号が得られることを明らかにした。
今回の成果は、高効率かつ低損失の光変調に新たな手段を与えるものであり、光変調器を利用したデータセンターの高性能化・省電力化のみならず、次世代光ネットワークで必須となる光スイッチや自動運転車で必要となるレーザスキャナなど幅広い応用が期待される。