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光子1つが見える「光子顕微鏡」を世界で初めて開発

April, 7, 2017, Cambridge--産業技術総合研究所(産総研) 物理計測標準研究部門量子光計測研究グループ 福田大治研究グループ長、丹羽一樹主任研究員は、従来の光学顕微鏡では観測できない極めて弱い光でも、明瞭なカラー画像を観察できる「光子顕微鏡」を世界で初めて開発した。

 通常、試料をカラー観測する際には、白黒画像しか得られない電子顕微鏡ではなく、光学顕微鏡が用いられる。光学顕微鏡は、試料からの光をレンズで集光してCMOSカメラなどの光検出器で観察する。しかし、試料からの光が極めて弱くて光検出器の検出限界を下回ると、観測できない。
 産総研では、超伝導現象を利用した超伝導光センサの開発を進めており、これまでに、光の最小単位である光子を1個ずつ検出し、光子の波長も識別できる光センサを実現している。今回、この超伝導光センサを顕微鏡の光検出器として用いて、従来の光学顕微鏡の検出限界を大幅に超える「光子顕微鏡」を開発し、光子数個程度の極めて弱い光でカラー画像の撮影に世界で初めて成功した。
 今回開発した顕微鏡を用いて、生体細胞の微弱発光の観察や微量化学物質の蛍光分析など、医療・バイオ分野や半導体分野における研究開発・製品開発での利用が期待される。

光の最小単位は光子であり、それ以上分けられない最小のエネルギーを持つ。このように光子は粒子の性質を持つが、同時に波動性も持つため固有の波長も持っている。アインシュタインの光量子説では、光子のエネルギーと波長には相関性があるため、光子のエネルギーを測定すればその波長も識別できる。産総研が開発した超伝導光センサは、超伝導薄膜からなる光検出部と、光を閉じ込めるための誘電体多層膜からなる。極低温に保持された光検出部に光子が入射すると、光子のエネルギーによって一時的に超伝導状態が壊れ、電気抵抗が変化する。その抵抗変化の大きさから光子のエネルギーが分かるので、光子の波長を識別できる。

 この超伝導光センサを光学顕微鏡の光検出器に用いた光子顕微鏡を開発した。まず、観察する試料のある場所からの極微弱光をレンズ系で集光し、光ファイバで冷凍機内の超伝導光センサへと光子を導く。超伝導光センサは、冷凍機内で温度100 mKに維持されている。到達した光子を超伝導光センサで1個ずつ分離検出してそのエネルギーを測定し、ある一定の時間内に到達した光子の数とそれぞれのエネルギー(波長)から、測定場所の試料の色を識別する。試料を走査して、場所ごとにこの測定を繰り返すことで、カラー画像が構築できる。
 光子顕微鏡の性能を実証するため、カラー印刷したテストパターンを極微弱光で照らし、反射光を、カラーCMOSカメラを用いた一般的な光学顕微鏡と、今回開発した光子顕微鏡でそれぞれ撮影して比較した。試料からの反射光の光強度が微弱だと、光学顕微鏡では色を見分けることが困難であったが、光子顕微鏡では同じ光強度でも、赤、黄、青の各色を明瞭なコントラストで識別できた。この測定では1測定点あたりの光子数は、平均して20個程度(露光時間50 ms)であり、これは0.16 fW(フェムトワット)程度の極微弱な光強度に相当する。これほどの極微弱光で鮮明なカラー画像が得られたのは、世界初となる。
(詳細は、www.aist.go.jp)