February, 13, 2017, 東京--東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の西沢望特任助教、宗片比呂夫教授らは、室温で純粋な円偏光を発するスピン発光ダイオード(スピンLED)を世界に先駆けて創製した。
この新たなスピンLEDは、電流が小さいと偏光は起きないが、電流を大きくすると発光強度とともに円偏光の純度が上がる。室温での円偏光発光の壁となっていた半導体と磁性体金属の接合面で起こる非磁性物質の生成反応を抑制したことで達成された。将来的には超小型化や集積化が可能で、これまで考えられなかった、内視鏡に組み込みガン細胞を検出したり、特殊な暗号通信の伝送光に利用するなどへの応用が期待できる。
これまで円偏光のらせんの回転方向を司る電子の自転軸の向きを全て揃えるための原理開拓と、素子中の半導体と磁性体金属の接合で生じる非磁性物質の生成をなくす作製法の開拓が室温円偏光実現の最大課題と考えられてきた。
今回、宗片研究室で独自開発した“結晶性アルミナ中間層”によって、大電流を流していても接合面での化学変化を抑えこむことに成功した。これによって、大電流下の発光で円偏光が増幅される現象を発見することができた。半導体を用いたスピントロニクス素子を室温で駆動することを疑問視する専門家は多かったが、その疑問を打ち破る成果でもある。
室温で純粋な円偏光を発するスピンLEDを世界に先駆けて創製した。このダイオードは、中間層に結晶性アルミナを用いて、電流が小さい時は自然光に近い偏光のない「無偏光」な発光であったものが、電流を大きくして発光強度を上げていくと円偏光の純度がみるみる上昇して純粋な円偏光に達する。この性質から、ダイオード中で発生した強い発光自体に円偏光を増幅する効果があると推定される。
現状で素子中の結晶性アルミナ中間層は大電流通電状態で1週間程度の耐久性しかない。今後は、その品質をさらに向上させるとともに、円偏光を発する超小型レーザの実現を目指していく。その過程で、今回判明した円偏光が増幅する原理が解き明かされる可能性がある。
地球上のあらゆる生物を構成する分子は光学活性があるので、円偏光を利用すれば、これまで観察困難だった生命活動を詳細に観察できるようになるかもしれない。また、円偏光を使った暗号通信への応用も期待される。
(詳細は、www.titech.ac.jp)