February, 7, 2017, 仙台--東北大学とNIMSの研究グループは、強磁場、極低温環境で動作する走査型偏光選択蛍光分光顕微鏡と核磁気共鳴(NMR)を組み合わせ、半導体を構成する原子核のもつスピン(核スピン)の偏極状態や緩和時間を高い空間分解能で撮像することに成功した。
東北大学大学院理学研究科の遊佐剛准教授、ジョン・ニコラス・ムーア博士課程後期学生、物質・材料研究機構 (NIMS) の間野高明主幹研究員、野田武司グループリーダーの研究グループは、強磁場、極低温環境で動作する走査型偏光選択蛍光分光顕微鏡と核磁気共鳴(NMR)を組み合わせ、半導体を構成する原子核のもつスピン(核スピン)の偏極状態や緩和時間を高い空間分解能で撮像することに成功した。研究成果は、電子の特殊な状態である分数量子ホール液体と核スピンの相互作用を解明する重要な成果。
研究グループは走査型偏光選択蛍光分光顕微鏡とNMR技術を組み合わせ、光の波⻑限界程度(1µm程度)の空間分解能をもつ光検出磁気イメージング法(光検出 MRI)を中心とする複数の核スピン測定技術を開発した。この光検出MRIは、測定対象となる半導体の試料(半導体ナノ構造)に光を照射した際に試料から放出される蛍光(発光)の強度が、核スピンの状態によってわずかに変化することを利用し、その発光のわずかな変化の空間的な違いを可視化するものである。 この測定技術を使って今回観察したのは高純度半導体のナノ構造試料。半導体中の電子は通常、気体中の分子のようにそれぞれが自由に動き回ることができるが、電子が動き回ることができる空間を二次元の平面内に制限して垂直に磁場をかけ、極低温に冷やすと分数量子ホール液体として振る舞うことが知られている。日常の電子部品で使われている半導体の中を流れる電子も、この分数量子ホール状態にある電子も、核スピンと相互作用することは通常はほとんどない。しかし、分数量子ホール状態の中でも、分数量子ホール状態にある電子が完全強磁性相と非磁性相の間で相転移を起こす状態にある電子は核スピンと強く相互作用することが知られていたが、メカニズムについては 20年もの間、解明されていなかった。 今回光検出 NMR やその派生技術を駆使することで、完全強磁性相と非磁性相という2つの異なる分数量子ホール液体が縞状の空間パターン(磁区構造)を形成し、その境界で核スピンと強く相互作用をすることを見いだした。
今回用いた光検出 MRI は核スピンの向きを含めた偏極度、核スピンの縦緩和時間、スピン拡散距離等も1µm程度の空間分解能で計測が可能なため、核スピンに関連する半導体スピントロニクスや量子デバイスの分野の研究で利用することが可能。将来的には紫外から赤外領域の広い波⻑範囲で、半導体以外の材料系を対象とした光検出 MRI などへの応用に展開していく予定。