December, 14, 2016, つくば--産業技術総合研究所(産総研)などの共同研究グループは、新しい効果の発現が期待されるビスマスナノワイヤーのホール係数を測定する技術を開発した。
研究グループは、産総研省エネルギー研究部門熱電変換グループ 村田正行 研究員、山本淳 研究グループ長、埼玉大学(埼玉大)大学院理工学研究科 長谷川靖洋准教授、茨城大学(茨城大)工学部 小峰啓史准教授で構成。
研究グループは、直径700nm、長さ2.69 mmのビスマスナノワイヤーに、微細な加工と観察ができるFIB-SEM装置を用いて、微細電極を形成することで、ナノワイヤーにおけるホール係数の精密測定に世界で初めて成功した。また、測定の結果、キャリア移動度がバルクのビスマスと比べて大幅に低下することを実験的に初めて明らかにした。今回開発した測定技術の応用により、様々なナノワイヤーの物性解明への貢献が期待される。
酸化されやすいビスマスナノワイヤーの空気への曝露を避けるために、中心部分に直径700nmの孔が空けられた円柱形の石英ガラスに、高温で融解させたビスマスを高圧で圧入してナノワイヤーを作製(外径0.53mm、長さ2.69mmの石英ガラスの中心部分に、ナノワイヤーが配置された構造)。石英ガラスを側面から中央近くまで研磨して削り落とし、ナノワイヤーから石英ガラスの研磨面までの距離を1µm程度にして、その研磨面に金属薄膜を蒸着した。その後、FIB-SEM装置を用いてナノワイヤーの正確な位置に微小な電極を作製し、最後に配線用電極として利用するために、研磨面の金属薄膜を8分割するナノ加工溝を形成した。
加工速度を調整した集束イオンビーム(FIB)により石英ガラスを少しずつ削りながら、同時に電子顕微鏡(SEM)により加工箇所を観察して、ナノワイヤーへのダメージを最小限に抑えながら表面を露出させ、ナノワイヤー上に微小な電極を作製。この作製技術を用いると、ナノワイヤーの露出から電極形成まで真空中で行えるため、ナノワイヤー表面の酸化を防ぐことができる。さらに、この技術により、電極位置のずれを長手方向に対して300nm程度以下に抑え、高い位置精度で電極を形成することに成功した。
測定結果はホール効果に起因する電圧とナノワイヤー長手方向の抵抗に起因する電圧を含んでいる。ホール電圧は磁場に対して奇関数であり、抵抗由来の電圧が偶関数であることを利用して、正磁場と負磁場の値を引き算し、その傾きと印加電流からホール係数を決定する。ホール電圧はマイクロボルトオーダーという小さい電圧であるにもかかわらず、ノイズ電圧を100nV以下に抑えることで高精度に測定できていることがわかる。さらに、電極位置の誤差が300nm以下であることから、無磁場(0 T)の時に測定されるオフセット電圧も10 µV程度に抑えられている。
今回開発した手法により電極を形成することで、ビスマスナノワイヤーのホール係数を、4.2 Kから300 Kの温度範囲で初めて測定できた。測定結果の解析から得たキャリア移動度の温度依存性は、ナノワイヤー化によって、バルクとは明らかに異なっていた。このように、ナノワイヤー中では直径サイズの制限を受けてキャリア移動度が低下し、特に極低温での移動度の低下が顕著になることを実験的に観測した。
今回開発したナノワイヤーへの電極作製技術によりホール係数を正確に測定でき、キャリア移動度やキャリア密度を実験的に評価できる。また、この手法はビスマスだけではなく、他の材料のナノワイヤーにも適用でき、これまで未解明だったナノワイヤーの電気伝導現象を、実験的に把握するための技術として期待できる。
この技術の詳細は、Nano Lettersのオンライン版発表された。
(参照、www.aist.go.jp)