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原子の集団が数珠つなぎに電子を放出する新現象を解明

December, 8, 2016, 和光--国際的合同研究チームは、日本初の短波長自由電子レーザ装置、SCSS試験加速器から供給される強力な極紫外光パルスをネオン原子の集団に照射すると、多くの電子が数珠つなぎで飛び出してくる新しい現象を発見した。
 強力な極紫外光パルスを物質に照射すると、これまでにない特異な状態を生成することが可能。特に、物質のイオン化エネルギーよりもわずかに低い光子エネルギー(1つの光子当たりのエネルギー)を持つ極紫外光パルスを用いると、物質内の多くの電子を同時に励起することができる。このような多重励起状態は電子を放出しながら安定な状態へと緩和すると予想されるが、詳細は知られていない。
 研究では、強力な極紫外光パルスを希ガスのネオン原子が多数集まったクラスタと呼ばれる原子集団に照射し、放出される電子の運動エネルギーを計測した。得られたスペクトルを理論計算と比較して、多重励起状態にあるネオン原子クラスターから様々なエネルギーを持った電子が、これまでに知られていなかった新たな経路を経て次々に放出されることを解明した。
 研究では、真空中に平均原子数が5000個のネオン・クラスターを作成し、SCSSで得られる極紫外光パルスを照射して、放出される電子のスペクトルを運動量画像計測法と呼ばれる手法で計測した。照射する光のエネルギーを、ネオン原子の2p軌道にある電子が3dリュードベリ軌道に遷移するエネルギー 20.3eVに調整し、ネオン・クラスターの中に多数の3dリュードベリ原子励起状態を生成した。このようにして生成したクラスターの多重励起状態の緩和に伴う電子スペクトルを計測し、電子スペクトルに複数の特徴的なピークを観測した。ピークを帰属した結果、近接する2つの3d励起状態原子の一方で電子が3d軌道から2p軌道に遷移して原子基底状態に戻るのではなく、3d軌道よりもわずかに低いエネルギーの3p軌道や3s軌道に遷移し、その遷移に伴う余剰エネルギーを近接する励起原子に与えてその3d軌道の電子を放出してイオンを生成する、という予想もされていなかった緩和の機構が見出された。研究チームは、新たに解明したこの機構を「リュードベリ原子間クーロン緩和」(IntraRydberg Interatomic Coulombic Decay)と名付けた。また、リュードベリ原子間クーロン緩和によって生成する3pや3s励起状態原子もさらに他の励起原子と相互作用して緩和する。このようにして様々なエネルギーをもった電子が数珠つなぎで飛び出してくる「原子間クーロン緩和カスケード」(Interatomic Coulombic Decay Cascades)も今回の研究で初めて解明された機構。クラスターの多重励起状態を取り扱う理論計算は実験スペクトルを良く再現しており、リュードベリ原子間クーロン緩和も原子間クーロン緩和カスケードも10fsから100fsのオーダーの非常に短い時間に起こる超高速過程であることを示唆するものである。
 研究チームは、東北大学多元物質科学研究所上田潔教授・福澤宏宣助教のグループ、京都大学大学院理学研究科八尾誠教授・永谷清信助教のグループ、広島大学大学院理学研究科和田真一助教、ドイツ国ハイデルベルグ大学ローレンツ・セダーバウム教授のグループ、産業技術総合研究所分析計測標準研究部門齋藤則生副研究部門長、理化学研究所放射光科学総合研究センター矢橋牧名グループディレクター等で構成。
(詳細は、www.aist.go.jp)