December, 8, 2016, Philadelphia--NIST(国立国家標準・技術研究所)の物理学者は、イッテルビウム原子をベースにした2つの実験原子時計を統合して、クロック安定性で世界記録を樹立した。安定性は、各時間刻みの時間幅が、その前後に来る全ての他の時間刻みに正確に一致する程度と考えられる。
この超安定性により、イッテルビウム格子クロックは、自然の「基礎定数」が実際に不変であるかどうかなどの正確なテストの一段と強力なツールとなる、また宇宙の多くを構成すると言われている捕まえにくいダークマター探査のツールになる。
NISTの物理学者、Andrew Ludlowは、「われわれはクロック動作における重要な種類のノイズを除去し、効果的にクロック信号を強化した。これにより、わずか数千秒で10の18乗分の1.5の不安定性に達することができる。これは、われわれが数年前に実証したクロック安定性の記録をわずかに打ち破るものであるが、10倍速く目標を達成した」とコメントしている。
NISTの原子時計は、非常に高いレベルで規定通りに動作しているが、研究者はわずかな不完全性を低減するために、継続してそれを調整している。新しいダブルクロック設計は、原子をプローブし同期するレーザ周波数の小さいが重要な歪を除去する。クロックが安定すればするほど、その計測能力はますます正確になる。
新しいイッテルビウム格子「ダブルクロック」は世界で最も安定したクロックである、ただしNISTの別の原子時計、ストロンチウムベースでJILAに設置されているものは、精度の世界記録を保持している。精度とは、原子が2つの電子エネルギーレベル間で振動している自然の周波数とクロックがどの程度同調しているかを指している。
イッテルビウムとストロンチウムの両クロックは光周波数で時を刻んでいる、これは時間標準として用いられているセシウム原子時計のマイクロ波周波数よりもはるかに高い。光原子時計は、レーザの周波数を、2つのエネルギー状態間で原子が遷移する周波数と共振するように調整することで動作する。この原子的時間刻みは、計時ツールとして利用できるように転移される。このプロセスに影響を与えるどんなノイズでも、不確定性でもレーザ周波数を乱し、したがって計時精度を乱す。
光原子時計は一般に、原子が準備、計測される間の「デッドタイム」の周期で原子のレーザプローブを交替する。デッドタイムの間、レーザチューニングプロセスでは、あるレーザ周波数変動は適正に観察されない、つまり補償されない。結果として生ずるノイズの影響が、これまでは、クロックの安定性と精度を限界づけていた。
NISTの新しいダブルクロック設計は、ゼロデッドタイム(ZDT)であり、実質的にデッドタイムノイズは存在しない。1つの原子集団からもう1つの原子集団へ交互に切り替わることによって継続的に原子をプローブするからである。5000および10000のイッテルビウム原子の2つの集団は、それぞれ光格子と呼ばれるレーザ光のグリッドにトラップされ、共通のレーザでプローブされる。
2つの原子集団の反応の計測は統合されてレーザ周波数に対して単一の複合補正を行う。これらの計測と補正は、単一のクロックで2倍速く行われる。デッドタイムノイズが存在しないので、その新しいクロックは以前よりも10倍速く記録的な安定性基準に到達する。重要な点は、パフォーマンスが、レーザではなくクロックの原子システムによる制約を受けると言うことである。これはLudlowが未来のアプリケーションの「夢」と呼ぶ、物理学における念願の目標である。
このアプローチは究極的には原子時計のサイズと複雑さを縮小できる。したがって、装置は実験室の外に持ち出せるようなポータブルになり得る。物理的なパッケージは、現状では単一クロックよりも大きいが、最終的には両方の原子システムは単一の真空装置およびより簡素なレーザシステムを共有する。したがって全体のサイズは縮小する。ポータブル光原子時計は、相対論的測地学のために世界中に配置したり、一般相対性理論のテストのために宇宙船に搭載したりできる。