November, 14, 2016, Boulder--JILA(宇宙物理学研究所)の研究チームは、最先端の原子時計で使用される同じタイプの原子から同期発光をベースにした新しいレーザ設計を実証した。レーザは非常に安定的であるので、原子時計の性能を100倍改善し、時計そのものとしても使え、一方で天文学的距離の正確な「定規」となるような他の科学的探究の前進にも使える。
超放射レーザの赤色光のレーザ出力では、従来のレーザに比べて、広がる機械的振動の影響が約10000倍少なくなると考えられる。その結果、新しいレーザは周波数への正確な固定が一段と強まり、正確なツールとしては100倍優れている。
同じJILAグループが、2012年に超放射レーザの基本原理を実証した。今回は、JILAの世界最先端のストロンチウム格子時計で使用されている同じタイプの原子を用いてレーザを構築した。新しいレーザは、それだけで原子時計として使えると考えられる。
ストロンチウム原子が選択されたのは、優れた周波数の「メモリ」となるからである。潜在的に、この情報は2.5分蓄積できる。一般的な原子はわずか1000億分の1秒である。これにより超放射レーザは、ほとんどのレーザの色(周波数)情報を原子内部に蓄積し保護できる。それに対して、通常のレーザはこの情報を2つのミラー間の光振動に蓄積し、少しでもミラーが振動すると波長が変わる。正確な周波数を維持できることは、原子時計のようなアプリケーションには不可欠である。原子時計は1つのエネルギー状態から別の状態へ原子が時を刻むことに依拠しているからである。
JILA/NISTの研究者、James Thompson氏は、「しかし難しい点がある。原子の非常に長いメモリは素晴らしいが、原子から光を放出させることが非常に困難であり、これができないと情報は使えない」と言う。「とは言えこの超放射レーザでは、初めてこれらの原子に、通常よりも10000倍速く光を放出させた」。
JILAの超放射レーザは、中空エンクロージャに5000層にスタックした200000のストロンチウム原子を使う(中空エンクロージャは、2つのミラー間のキャビティ。これらのミラーは振動するが、周波数情報は原子の中に蓄積されている)。原子は絶対零度付近に冷却され、外部レーザビームの交差によって作られた光格子「光の結晶」によって真空中に浮遊している。
実験は、瞬間的に原子にレーザ光を照射することで始まる。これによって原子に長期の励起状態、つまり高エネルギー状態を準備させる。環境信号、真空の量子ノイズによってストロンチウム原子は自然に時を刻む、外核電子が原子の一方から他方へ振動を始めるからである。この振動は、非常に小さな光をキャビティに放射する微小なアンテナのようなものである。この非常に弱い光は、わずか数個のフォトンで構成されており、キャビティ内を振動する、これにより原子は相互に交信し同期する。この同期現象は近接設置した振り子時計、ホタルの閃光にもみられる。
同期が広がり、強まるにつれて、ますます多くの光が放出され、最終的に全ての原子が1つの励起状態(高エネルギー)から沈静(低エネルギー)状態へ振動する。光はミラー間を約30000回振動子、ミラーから漏れ出た。当初原子に蓄積されたエネルギーの全てが、5000分の1秒続くレーザ光パルスに変換された。
同期すると、小さなアンテナの集合は1個の「スーパーアンテナ」のように動作する。これは通常よりもはるかに高レートでキャビティに力を放出する。集合的な放出は、独立に放射する原子よりも1000倍高強度であるので、超放射プロセスと呼ばれる。この放出レートは、原子の数の平方に比例して増加するので、レーザは同期がない場合と比べてはるかに高輝度になる。
今後の研究は、原子時計のようなアプリケーションで絶対周波数レファランスとしての超放射レーザ光の利用を研究することになる。さらに、絶えず原子を励起状態に戻すことによって連続的な超放射レーザビームを作りたいと研究グループは考えている。
(詳細は、www.nist.gov)